中小企業が陥りがちな業務の属人化問題|原因とその解消方法を専門家が解説

属人化の解消は、中小企業にとって、生産性向上のための重要なキーワードになっています。生産年齢人口の減少により、構造的な人手不足に陥っている中、中小企業が事業を持続するためには、経験や能力にとらわれない多様な人材を活用することが重要になっています。

そのためには、中小企業の全業務について見直しを行い、属人化の解消を行って、誰でも仕事できる環境を整備する必要があります。

属人化の原因とその解消手段としての標準化、マニュアル化の方法について解説します。

目次

属人化とは

属人化とは、社内の特定の業務について、特定の担当者しか対応できない状況です。

その担当者が、お休みだったり、退職した場合は、他の社員がその業務に対応することが難しくなるため、ネガティブな意味合いで用いられています。

また、属人化した業務は、「何を」「どのような手順で」「どれくらいの時間をかけて」行っているのか、他の社員からは分かりにくいため、ブラックボックス化した状態となります。

標準化・マニュアル化とは

属人化の対義語として、標準化、マニュアル化という言葉があります。標準化とマニュアル化は混同されがちですが、厳密には異なります。

標準化は、仕事の成果などに一定の基準を設定して、誰が仕事しても同じ標準に達するようにすることです。そのためには、マニュアルを作成して、仕事の手順を統一する必要があります。

つまり、マニュアル化とは、仕事の手順などの手引書を作成して、誰が取り組んでも同じ手順、効率で作業を行えるようにすることを目指します。その結果として、仕事の成果にばらつきのない標準化を達成するわけです。

標準化、マニュアル化された業務は、担当者の能力や経験に依存せず、誰でも取り組めることが特徴で、属人化した業務の対極に位置します。

属人化の解消が必要な理由

属人化した業務は、担当者の能力や経験に依存した業務なので、その担当者がいなくなれば、業務の非効率化や停滞につながってしまいます。

近年は、少子高齢化により、人材確保が困難になっています。ベテランの人材の高齢化も進み、維持、確保が難しくなっていることから、能力や経験に関係なく多様な人材を活用する必要性が生じています。

とりわけ、属人化した業務は、担当できる人材が限られてしまうため、その人材確保はさらに困難です。そこで、属人化の解消を進めて、能力や経験に関わらず、誰でも担当できるようにすることが重要になっています。

属人化によるメリットとデメリット

属人化は、デメリットが強調されがちですが、メリットもあります。それぞれ確認しましょう。

属人化によるメリット

特定の業務の属人化は、その業務を担当する人にとっては多大なメリットがあります。

多くの場合、専門性の高い業務であるため、その業務の経験を積むことで、自らのキャリアに磨きをかけることができます。

また、社内外からの評価が高まり、社内における地位が高まりますし、転職もしやすくなることもあります。

何より、業務に際して自らの裁量で取り組める部分が多い点がメリットと言えるでしょう。

一方、会社にとっては、標準化、マニュアル化を目指すよりも、専門性の高い人材を数人採用した方がコストを抑えられることもあります。

しかし、IT、ICT、AIが発達した現在では、標準化、マニュアル化できない業務は少なくなっており、属人化は、担当者が不在となることによる業務停滞リスクの方が大きいと言えます。

属人化によるデメリット

属人化は人材確保が困難である点だけでなく、様々なデメリットがあります。

業務効率の改善が難しい

属人化している状況では、担当者個人のペースで業務が進められているため、業務の手順や方法について客観的な評価を行うことが難しく、業務効率の改善を図りにくい点がデメリットとなります。

また、担当者個人に業務が集中しがちで、長時間労働につながりがちです。長時間労働の結果、パフォーマンスが低下すると、業務効率が悪化し、改善を図りにくくなります。

業務が停滞するリスク

属人化している状況では、担当者の不在時には、他の社員が対応することができなかったり、対応できたとしても非効率的で、社外に迷惑をかけてしまうこともあります。

また、担当者が急に退職、休職してしまった場合は、直ちに業務を担当できる人を探すことができず、一時的にその業務ができなかったり、業務内容によっては会社の業務全体に影響を及ぼしてしまうリスクもあります。

品質が安定しないこともある

属人化している場合、その業務の品質は、担当者個人の能力に依存しがちです。担当者の能力が高ければ、高い品質を期待することもできますが、担当者にも得手不得手があるので、苦手な業務の場合、品質が低下してしまうこともあります。

また、品質の低下やミスに気づきにくく、ミスが発覚した時は手遅れになってしまうリスクもあります。

社内でナレッジやノウハウを共有しづらい

属人化している場合、その業務のナレッジやノウハウは担当者だけが有している状態になります。他の社員と共同、交代で作業を行うことにより、ナレッジやノウハウを共有することができないため、組織内での共有や活用が難しくなります。

また、担当者が退職する場合、ナレッジやノウハウも持ち出されてしまい、後任の担当者が退職した人の有していたナレッジやノウハウを活用できず、業務の停滞や非効率化を招いてしまいがちです。

業務を評価することが難しい

属人化している上に、その業務の成果を評価できる人が他にいない場合は、上司はもちろん、経営陣でさえ、その業務が適正か判断することが難しくなります。

そのために、業務量に対する担当者の数や体制が適正か判断しづらいこともあります。

新しい働き方への対応が難しい

属人化した業務は、テレワーク、リモートワーク、ワーケーションといった新しい働き方に対応することが難しいことがあります。

例えば、会社のレガシーシステムが属人化の原因となっている場合、出社しなければ仕事になりません。

また、テレワークが可能でも、オフィス内での業務以上にブラックボックス化しやすく、業務が適正に行われているのかどうか把握しづらくなってしまいます。

属人化の解消が進まない原因

属人化の解消が必要であることは理解していても、なかなか取り組めない企業も少なくありません。属人化の解消が進まない原因としては次のような理由が挙げられます。

業務が集中しすぎている

属人化の解消手段として、標準化、マニュアル化が有効とされていますが、マニュアルを作成するには、業務とは別に行う必要があります。

その業務の担当者が、目の前の業務をこなすことに忙しいと、その業務の進め方やノウハウ、注意点などを書き出してマニュアルを作成する余裕などありません。そのために、いつまでも標準化、マニュアル化が進まないこともあります。

このような場合は、担当者を一時的に増やして、マニュアル作成に対応できる時間を確保する必要があります。

担当者が標準化、マニュアル化に協力しないこともある

標準化、マニュアル化した場合、その業務の担当者の社内における地位が下落してしまう可能性があるために、協力してくれないこともあります。

このような場合は、標準化、マニュアル化後も、その業務を統括する地位を約束するなどして、協力を求める必要があります。

業務の専門性が高いため

業務の専門性が高いことも属人化してしまう原因の一つです。

しかし、今の時代、IT、ICT、AIが非常に発達しており、職人やベテランの経験や勘に頼っていた業務についても、AIに学習させることにより、代替えが可能になるという状況があらゆる業界で生じています。

業務の専門性が高いというのは、その業界や社内だけでの思い込みかもしれません。AIなどに詳しい第三者に評価してもらうことで、代替えが可能であることに気づくこともあります。

レガシーシステムを利用している

レガシーシステムとは、過去の技術や老朽化、複雑化した仕組みで構築されているシステムのことです。

昭和の時代に導入されたオフィスコンピューターなどが代表例ですが、こうした古いシステムを未だに業務で利用している場合、そのシステムを使いこなせる人しか業務ができないために属人化してしまうことがあります。

このような場合は、レガシーシステムを廃止し、最先端のIT、ICT機器を導入することで、誰でも業務を担当できるようにすることが属人化解消の第一歩になります。

情報共有を促す仕組みが整備されていない

標準化、マニュアル化を進めるためには、マニュアル作成担当者を置くだけでなく、業務についての情報共有が容易になる仕組みを構築することが大切です。

情報共有のために有効なのが、グループウェアやチャットツールなどのコミュニケーションツールを利用することですが、こうしたツールは社外にある多様なITソリューション・サービスを活用することで比較的容易に導入できます。

中小企業特有の事情

標準化、マニュアル化を進めるためには、そのための人員が必要です。しかし、中小企業の場合、そもそも人材確保が難しく、取り組みが進みにくい状況にあることも少なくありません。

また、レガシーシステムの更新のためには、設備投資が必要ですが、そのための資金の調達が難しいケースもあります。

最も大きな理由としては、中小企業の経営陣が属人化の解消に消極的だったり、属人化の解消をあきらめていることが挙げられます。そもそも、人材不足のため、社内の全業務がほぼ属人化しており、属人化の解消が事実上不可能と考えられていることもあります。

属人化の解消のためには、ノウハウや知識、経験が必要で、社内に人材がいなければ進めることは難しいものです。外部のコンサルタントの力を借りるなどして、属人化の解消に向けた取り組みを進めることが重要です。

属人化の解消方法

属人化の解消とは、その業務を標準化、マニュアル化することを意味します。

標準化、マニュアル化するための流れは次のとおりです。

  1. 業務の棚卸を行う
  2. 業務の見える化を行う
  3. 業務の評価を行う
  4. 文章化しマニュアルを作成する

それぞれ見ていきましょう。

業務の棚卸を行う

属人化の解消を目指す業務の内容をすべて洗い出して、業務を細かく分類します。

やり方としては、業務フローに沿って洗い出す演繹的アプローチ、業務内容を思いつくままに洗い出した後で整理する帰納的アプローチがあります。

次に、分類した業務ごとに標準化、マニュアル化の必要性が高いかどうかの優先順序を付けます。優先順序の高い順に標準化、マニュアル化を目指すことになります。

どの業務を優先すべきかは業務内容にもよりますが、一般的な傾向としては、業務をこなすのに時間がかかる上、現場が困っている業務を優先的に標準化、マニュアル化します。

時間がかかる業務を標準化、マニュアル化できれば、作業時間の短縮につながり、効果が見えやすいためです。

また、ベテランよりも新人に任される業務を優先します。新人ほど、マニュアルを見ながら仕事する傾向があり、業務の標準化につながりやすいためです。

業務の見える化を行う

分類した業務の具体的な手順を確認する段階です。

業務の手順は担当者ごとに異なっており、生産性の良さにも差があることがあります。

そこで、それぞれのやり方を比較して共通点を見つけ出し、最も効率の良い手順に組み替えていきます。

属人化している業務の場合、担当者の癖が業務の手順に反映されていることも多く、手順の組み換えは反発されることもありますが、ここでしっかりと骨格を作っておかなければ、生産性の向上にはつながりません。

業務の評価を行う

業務の具体的な手順が明らかになったら、その手順ごとに、作業内容を評価していきます。

評価すべき点は次のような内容です。

  • 効率性……作業内容が非効率的でないかどうか。作業の順序、分担が適切か、重複、過負荷はないかなど。
  • 品質……作業中の動作や作業の成果の品質は適切か。
  • 費用……作業にかかる費用は適切かどうか。不要なリソースはないか。
  • スピード……作業スピードが適切かどうか
  • 安全性……危険性やミスを回避するためのチェックを行っているか。
  • 意欲……作業に従事する人がその意義を理解しているか。やる気を削ぐような分担になっていないか。

マニュアルを作成する

分類した業務ごとに作業フローに沿って、マニュアルを作成します。

マニュアル作成時に重要なことはフォーマットを統一することです。業務ごとにフォーマットが異なっていると、読むのも知りたいことを探すのも大変だからです。

社内の全業務のマニュアルのフォーマットを統一しておけば、誰が読んだ時でも、どこに何が書いてあるか予想できるので必要な情報にたどり着きやすくなります。

中小企業が属人化の解消を進めるための心構え

中小企業の場合、ほぼすべての業務が属人化していることもあるため、個人の業務、一部門単位で取り組むだけでは意味がないこともあります。そのため、全社単位で属人化の解消を目指す必要があります。

そのためには、業務を担当する個人や部門だけに丸投げするのではなく、経営者、経営層がリーダーシップを発揮して、属人化の解消を進めていく必要があります。

まとめ

中小企業では、人材不足や一人当たりの業務の多忙さのために、業務の属人化が発生しやすい傾向があります。

しかし、今後、人材不足がさらに深刻化していく中で、経営を持続するためには、多様な人材の活用が必要になります。

そのためには、属人化の解消を目指して、社内の全業務の標準化、マニュアル化を目指すことが重要です。

中小企業にとって、決して容易な道ではありませんが、様々なツールを活用したり、外部のコンサルタントの力を借りるなどして、属人化の解消を目指してください。

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この記事を書いた人

普段は、業務歴20年の建設業支援専門の行政書士です。文章を書くことが好き&得意で、行政書士業務の傍ら、公的機関などで不動産、法律関係の専門性の高い記事を執筆。専門的な資料を精読したうえで、一般の方に向けて、正確かつ分かりやすく書くことを心がけており、好評を頂いております。ライターの仕事は知識を吸収し整理することにもつながるので、これからもコツコツ続けていきます。

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