職場の生産性やチームのモチベーション維持に課題を抱えているリーダーは少なくありません。そんな課題にヒントを与えてくれるのが「働きアリの法則」です。
この法則は、パレートの法則とも関係が深く、個人の能力や特性に着目した画期的な考え方を提唱しています。
本記事では、働きアリの法則の概要やパレートの法則との違い、そして具体的な活用方法まで紹介します。
活用にあたっての注意点も押さえているので、部下のマネジメントや人間関係の改善に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
働きアリの法則の基本概念
アリの巣における働きアリの行動を観察した研究から導き出された「働きアリの法則」は、人間社会の様々な組織にも当てはまる法則として注目されています。別名「2:6:2の法則」ともよく呼ばれています。
法則を理解するために、まずは概要やメカニズムをみていきましょう。
働きアリの法則の概要
働きアリの法則は、集団を「よく働く・普通・働かない」に分類したときに、以下の3つに分類される傾向があることを示した法則です。
「働きアリ」 (全体の2割) | 最も勤勉で貢献度の高いアリ巣の維持や食料調達などの重要な役割を担う周囲を牽引するリーダー的な存在となることも多い |
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「普通のアリ」(全体の6割) | 平均的な働きアリ指示に従って確実に仕事をこなす臨機応変に対応できる柔軟性も持ち合わせている |
「働かないアリ」(全体の2割) | ほとんど働かないアリ指示を待って行動する目立たない役割を担っている場合もある |
この法則は人間社会にも応用でき、会社内の社員の働きぶりも同様の割合で分かれる傾向があります。
つまり、ある会社に100人の社員がいれば、およそ20人がよく働き、60人が普通に働き、残りの20人が働かないといった具合です。
たとえ、働き者の社員だけや働かない社員だけの組織を作っても、結果は同じ比率になると考えられています。
働きアリの法則のメカニズム
20%の働きアリだけがよく働いているとする働きアリの法則は、信じがたい事実のように思えます。
しかし、これは単なる偶然ではなく、アリの行動様式と意思決定メカニズムにより導き出された法則です。
働きアリの法則には、以下の2つのメカニズムが大きく作用しています。
反応閾値による分業体制
アリは個体ごとに反応閾値(はんのういきち)と呼ばれる外部刺激に対する感受性の違いがあります。
反応閾値が低い個体は刺激に敏感で、素早く行動を開始する傾向があり、反応閾値が高い個体は刺激に対して鈍く、行動を開始するまでに時間がかかります。
研究の結果、アリの巣では、反応閾値が低い個体が全体の約2割、中間的な個体が約6割、高い個体が約2割の割合で分布していることが判明しました。
この反応閾値の差によって、アリは自然と2:6:2の分業体制を形成し、仕事を分担していることが分かっています。
情報格差と経験
働きアリは、巣内を頻繁に動き回ることで、餌場や危険などの情報を収集し、他のアリと共有します。
経験豊富な働きアリは、こうした情報に基づいて効率的に行動できるため、より多くの仕事量をこなします。
働きアリの法則とパレートの法則の違いと共通点
働きアリの法則と混同されがちなのが、パレートの法則です。
働きアリの法則とパレートの法則、一見同じように見えますが、実は異なる視点から組織の働き方を示しています。
ここでは、パレートの法則の概要や2つの法則の違いと共通点をみていきましょう。
パレートの法則の概要
パレートの法則は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートによって提唱された経験則で、「全体を構成する要素のうち、20%の要素が全体の80%の結果を生み出す」とされるものです。
パレートの法則は、さまざまな場面で観察できます。
例えば、顧客の20%が全体の80%の売上を占めている、問題の20%が全体の80%の労力を必要としているなどのようにです。
パレートの法則は、あくまでも経験則であり、常に80:20の比率が当てはまるわけではありません。
しかし、こうした偏りの存在を理解しておくことは、さまざまな場面で役立てられます。具体的な活用例は、以下のようなものが挙げられます。
マーケティング | 顧客の20%に焦点を絞ったマーケティング施策 |
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営業 | 売上貢献度の高い顧客に注力した営業活動 |
品質管理 | 問題の20%に集中した品質向上対策 |
時間管理 | 重要度の高い20%のタスクに取り組んだ生産性向上対策 |
パレートの法則は、限られた時間や労力で成果を得るための指針として活用できます。
働きアリの法則との違い
パレートの法則と働きアリの法則は、一見似ているように見えますが、実は異なる視点から生まれた考え方です。主な違いは以下のとおりです。
項目 | 働きアリの法則 | パレートの法則 |
---|---|---|
焦点となる視点 | 働き方の割合と生産性 | 原因と結果の関係 |
分析する視点 | 働き方の割合 | 要因と結果の割合 |
適用範囲 | 集団のマネジメント | 経済活動やマーケティング、品質管理など、幅広い分野 |
それぞれの法則の特徴や違いを理解し、状況に応じて適切な考え方を選択すれば、効果的なマネジメントにつなげられるでしょう。
働きアリの法則との共通点
働きアリの法則とパレートの法則には、共通点があります。
それは両法則とも、少数の要因が全体に大きな影響を及ぼすことを示している点です。
働きアリの法則では、コロニー内の一部の個体が大半の仕事を行っており、パレートの法則では、少数の原因が大部分の結果をもたらします。
つまり、両者とも「少数が多数に影響を与える」との考え方を根底に持っていると言えるでしょう。
働きアリの法則を活かした具体的なマネジメント手順
働きアリの法則は、集団における個々の貢献度が2:6:2の比率で分布するとされる法則です。
この法則をマネジメントに活かすことで、チーム全体の効率化や業績向上を図れます。
ここでは、働きアリの法則を活かした具体的なマネジメント手順を3つにわけてみていきましょう。
ステップ1:社員を3つのカテゴリーに分類
働きアリの法則を活かしたマネジメントを成功させるためには、社員を以下の3つのカテゴリーに分類する必要があります。
ハイパフォーマー(上位2割) | 目標達成意欲が高く、常に高いパフォーマンスを発揮する自発的に行動する問題解決能力やコミュニケーション能力に優れている |
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ミドルパフォーマー(中間6割) | 指示に従って確実に業務を遂行するチームワークを重視し、協調性が高い時間管理やスケジュール管理が得意 |
ローパフォーマー(下位2割) | 指示がないと行動を起こさず、目標達成に消極的な傾向があるミスや遅延が多い能力開発やモチベーション向上が課題 |
この分類はあくまでも目安であり、個々の社員の能力や貢献度を総合的に判断する必要があります。
社員を分類する際には、以下のような点を意識しましょう。
- 過去の実績(目標達成率、売上高などの客観的な指標)に基づいて評価する
- 日々の業務における積極性や責任感、協調性などを観察する
- 上司や同僚、部下からの評価を総合的に分析する
社員を分類できたら、それぞれのカテゴリーに合わせたマネジメント施策を実行していきます。
ステップ2:それぞれのカテゴリーに合ったマネジメント
働きアリの法則に基づいたマネジメントでは、それぞれに合ったマネジメントを行うことが重要です。
具体的には、以下のようなマネジメントが挙げられます。
ハイパフォーマー | 新規事業の立ち上げや海外プロジェクトへの参画など、難易度の高い仕事を任せるチームリーダーやプロジェクトリーダーなどのリーダー的な役割を担わせる |
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ミドルパフォーマー | 社内研修や外部研修で専門スキルやマネジメントスキルを向上させる資格取得を支援し、キャリアアップをサポートする |
ローパフォーマー | 個別面談を実施して課題を具体的に把握し、個別目標を設定するOJTを実施し、具体的なスキルアップを支援する |
上記はあくまで一例であり、個々の社員や組織の状況に合わせてマネジメント内容を調整する必要があります。
また、マネジメントを行う際には、定期的なフィードバックも忘れないようにしてください。
定期的なフィードバックは、社員の成長やモチベーションの向上に効果的です。
ステップ3:定期的な評価と必要に応じたカテゴリー変更
社員の状況は常に変化するため、定期的に評価を行い、必要に応じたカテゴリー変更が大切です。
社員は時間とともにスキルや経験、モチベーションなどが変化するため、当初の評価結果が常に当てはまるわけではありません。
評価の頻度は、職種や社員の成長速度によって異なりますが、3ヶ月~6ヶ月に1回程度を目安に行うのが一般的です。
評価では、以下の点に特に注目しましょう。
- 目標達成度
- 貢献度
- スキル・知識
- 仕事に対する態度や協調性など
カテゴリー変更を行う際には、社員との面談を行い、本人の希望やキャリアプランをしっかりと考慮する必要があります。
また、カテゴリー変更後のサポート体制も充実させることが大切です。
働きアリの法則を活用する際の注意点
働きアリの法則は、有効なマネジメントツールとなる一方で、誤った理解や運用方法によって、かえって組織のパフォーマンスを低下させてしまう可能性もあります。
以下では、働きアリの法則を活用する際に注意すべき3つのポイントを紹介します。
カテゴリー分けを固定化しない
働きアリの法則では、社員を「積極的に働く2割」「普通に働く6割」「働かない2割」の3つのカテゴリーに分類します。
ただし、このカテゴリーは固定的なものではなく、変化するものであることを理解しておかなければなりません。
社員は、時間経過とともにスキルや経験、モチベーションなどが変化するため、当初の評価結果が常に当てはまるわけではないからです。
定期的に評価を行い、必要に応じてカテゴリーを変更する体制を整えましょう。
上位2割の社員に注力しすぎない
上位2割の「積極的に働く社員」にばかり注目し、中間層や下位の社員を軽視するのは大きな間違いです。
中間層や下位2割の社員も、組織にとって重要な役割を担っています。
すべての社員を公平に評価し、個々の成長を支援しなければ組織全体の成長にはつなげられません。
組織全体のパフォーマンスを向上させるためには、すべての社員の成長機会を創出し、個々の能力を最大限に引き出すことが大切です。
長期的な視点を持つ
働きアリの法則は、長期的な視点に基づいたマネジメント手法です。
短期的な成果に固執して、社員に無理なノルマを課したり長時間労働を強要したりすると、かえって社員のモチベーションを低下させ、生産性を悪化させてしまいます。
社員の潜在能力を引き出し、長期的に育成する視点を忘れないように気を付けてください。
まとめ
「働きアリの法則」は、集団における個々の貢献度が2:6:2の比率に偏る法則です。
この法則を職場のマネジメントに活かすことで、組織全体の効率化や業績向上に繋げられます。
パレートの法則と働きアリの法則は、どちらも成果の偏りを示す法則ですが、働きアリの法則は集団内の行動パターンに着目している点が特徴です。
働きアリの法則は、従業員一人ひとりの能力や個性を理解し、それに合わせた役割分担とマネジメントの重要性を教えてくれます。
しかし、法則を杓子定規に適用するのは非効率であり、従業員のモチベーションを低下させる可能性もあります。
個々の能力や特性を理解したマネジメントが重要であることは忘れないようにしてください。