企業再建に役立つターンアラウンドマネジメントの全貌|成功の秘訣と具体的戦略

業績悪化や経営危機に直面した企業にとって、ターンアラウンドマネジメントは再建への重要な手段です。

しかし、専門知識や経験のない経営者にとって、具体的な方法や成功のポイントを理解することは容易ではありません。

本記事では、ターンアラウンドマネジメントの全体像をわかりやすく解説し、成功に導く秘訣と具体的な戦略を紹介します。

また、ターンアラウンドコンサルタントの選び方も解説しているため、ターンアラウンドマネジメントを成功させて、企業の業績見直しの参考にしてください。

目次

ターンアラウンドマネジメントとは?

ターンアラウンドマネジメントとは、業績不振や経営危機に陥った企業を再生させるための経営手法です。

「ターンアラウンド」は「方向転換」を意味し、企業の業績や方向性を転換させることを目指します。

この手法は、財務状況の改善、事業構造の見直し、組織の再編成など、多岐にわたる施策を包括的に実施しなければなりません。

ターンアラウンドマネジメントの重要な部分は、迅速かつ抜本的な変革です。経営方針や事業モデルを根本から見直し、新たな成長戦略を構築する必要があります。

また、短期的な危機対応だけではなく、中長期的な持続可能性も重視されます。

急速な経済環境の変化や競争激化により、業績悪化に陥る企業が増加しており、ターンアラウンドマネジメントに対するニーズは高まる一方です。

しかし、ターンアラウンドマネジメントは簡単ではありません。

高い専門知識と経験、実行力、そして関係者との協力関係が求められます。成功するためには、綿密な計画策定と迅速な実行、そして変化への柔軟な対応が不可欠です。

企業再生との違い

企業再生とターンアラウンドマネジメントは、どちらも経営が悪化した企業を立て直すための手法ですが、以下のような違いが挙げられます。

項目企業再生ターンアラウンドマネジメント
対象となる企業債務超過や継続的な赤字など、存続が危ぶまれる企業が対象業績悪化や経営危機に陥った企業が対象(必ずしも債務超過や赤字の状態にあるとは限らない)
目的企業の存続を第一の目的とし、債務整理や事業売却などを含む抜本的な改革を行う企業の存続と同時に、収益性や競争力の向上を目的とし、事業再構築や組織改革などを推進
手法財務整理や事業売却、リストラなど、短期間での業績改善を図る手法が多く用いられる事業再構築、組織改革、新規事業立ち上げなど、中長期的な視点に立った戦略的な手法が多く用いられる
専門家企業再生コンサルタントや弁護士などが関与するターンアラウンドマネージャーと呼ばれる専門家が関与する

このように、ターンアラウンドマネジメントは、企業再生よりも包括的な経営改革手法であり、長期的な視点に立って企業価値の向上を目指します。

一方、企業再生は、短期間での経営危機脱却に重点を置いている点が特徴です。

ターンアラウンドマネジメントが広まった理由

ターンアラウンドマネジメントが広まった理由には、主に以下の3つが挙げられます。

経営環境の複雑化

1990年代のバブル崩壊以降、企業を取り巻く経営環境は複雑化の一途を辿っています。

インターネットの普及やグローバル化の加速により、競争が激化し、業績悪化に陥る企業が増加しました。

従来のリストラを中心とした短期的収益改善策では対応が難しく、根本的な事業構造改革や組織改革が必要とされるケースが増えています。

事業再生ファンドの増加

近年、投資家から集めた資金を使って経営不振企業を再生する事業再生ファンドが増加しています。

事業再生ファンドは、企業再生の専門知識や経験を持つ人材を擁しており、迅速かつ効果的なターンアラウンドマネジメントを実施できます。

新型コロナウイルス感染症の影響

2018年に起きた世界的な新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業が業績悪化に直面しています。

政府による支援策も実施されていますが、経営破綻に陥る企業も少なくありません。

このような状況下で、ターンアラウンドマネジメントの重要性がますます高まっています。

上記以外にも、少子高齢化や労働力不足といった社会問題も、ターンアラウンドマネジメントの重要性を高める要因となっています。

ターンアラウンドマネジメントは、企業再生だけではなく、業績向上を目指す企業にとっても有効な手法です。

ターンアラウンドマネージャーとは

ターンアラウンドマネージャーとは、経営危機に瀕した企業の再建を主導する専門家です。

財務や戦略、組織改革など、多岐にわたる専門知識と豊富な実務経験を駆使して、企業再建を目指します。主な役割は、再建計画の策定・実行です。

多くの場合、外部から迎え入れられ、企業のトップマネジメントとして全権を委任されて再建計画を実行します。ターンアラウンドマネージャーの仕事は、単なるコスト削減にとどまりません。

事業構造の抜本的な見直しや新規事業の開発、組織文化の変革など、企業の持続的成長につながる施策を推進します。

ターンアラウンドマネジメントの成功事例

ターンアラウンドマネジメントの実際の成功事例を3つ紹介します。

  • 日本航空
  • 日産自動車
  • 日本マクドナルド

それぞれ見ていきましょう。

日本航空

日本航空は、2000年代後半に経営危機に陥り、2010年に民事再生法を申請しました。しかし、徹底的なリストラや事業再編、路線の見直しなどを進め、再建を果たしました。

具体的に用いられた施策は、以下のようなものが挙げられます。

  • 不採算路線の廃止や人員削減
  • 不採算事業の売却や、成長事業への投資
  • 収益性の高い路線に集中し、不採算路線を廃止

日本航空は、再建後も業績を伸ばし続け、現在は日本を代表する航空会社となっています。

2020年には、新型コロナウイルスの影響で再び経営危機に陥りましたが、政府の支援や自助努力により、現在ではV字回復の途上にあります。

日産自動車

2000年代後半、カルロス・ゴーン氏のリーダーシップのもと、日産自動車は経営危機を脱し、V字回復を成し遂げました。

その立役者となったのが、ターンアラウンドマネジメントと呼ばれる経営改革手法です。ゴーン氏が推進した改革は、具体的には以下のとおりです。

  • サプライヤーとの交渉や工場の統廃合など
  • 中国やインドなどの新興市場に進出
  • 斬新なデザインと高い性能を備えた新車種を開発
  • ルノーとの協業

これらの改革は、短期間で大きな成果を上げました。日産自動車は巨額の負債を大幅に削減し、営業利益の黒字化に成功しました。

また、世界販売台数も大幅に増加し、世界有数の自動車メーカーへと成長を遂げました。

日本マクドナルド

日本マクドナルドは、2014年から2015年にかけて深刻な経営危機に直面しました。

異物混入問題や商品供給の遅れなどにより、顧客の信頼を大きく失墜させ、業績が急激に悪化してしまいます。

この危機に対し、同社は包括的なターンアラウンド戦略を実施しました。主な施策には、以下のようなものが挙げられます。

  • 食の安全性強化
  • 店舗改装
  • メニュー刷新
  • 顧客サービスの向上

また、新たな商品開発や店舗体験の向上にも取り組み、2015年後半から業績は回復傾向に転じ、顧客の信頼も徐々に取り戻していきました。

ターンアラウンドマネジメントを成功させるためのポイント

ターンアラウンドマネジメントを成功させるための主なポイントは、以下の3つです。

  • 現状分析と課題特定
  • 実行可能な戦略と具体的な施策を立案
  • 事業再構築

それぞれ詳しく見ていきましょう。

現状分析と課題特定

ターンアラウンドマネジメントを成功に導くためには、まず企業の現状を正確に把握し、潜在的な課題を特定する必要があります。

これは、いわば病状診断と治療方針の策定にあたる重要なプロセスであり、専門的な知識と経験に基づいた緻密な分析が求められます。

具体的には以下のようなプロセスが必要です。

財務状況の徹底分析損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を分析売上や利益、負債、自己資本などの主要指標を分析し、現状把握資金繰りの状況を分析し、資金ショートのリスクを評価
事業ポートフォリオの評価各事業の収益性や成長性、市場シェアなどを分析し、収益性の高い事業と低い事業を把握撤退すべき事業や新規参入すべき事業を特定
組織体制と人材の評価人材の能力や経験、モチベーションなどを評価し、人材不足やミスマッチを特定

これらの分析を通して得られた情報を基に、経営課題の本質を正確に把握しなければなりません。

表面的な問題にとらわれず、深層にある真の原因を突き止めることが、ターンアラウンドマネジメント成功への第一歩です。

実行可能な戦略と具体的な施策を立案

ターンアラウンドマネジメントを成功に導くためには、机上の空論ではなく、現実的に実行可能な戦略と具体的な施策の立案が不可欠です。

具体的な施策例は、以下のようなものが挙げられます。

財務再建コスト削減収益構造の改善財務調達の最適化
収益性の高い事業に注力事業ポートフォリオの分析非核事業の売却・撤退新規事業の立ち上げ
業務改革業務プロセスの見直しITツールの導入コスト削減

上記の施策はあくまで一例であり、企業の状況に合わせて具体的な内容を調整する必要があります。

事業再構築

事業再構築は、ターンアラウンドマネジメントでの重要なプロセスの一つです。

単にコスト削減や人員整理を行うだけではなく、事業の基盤となる構造そのものを改革する必要があります。具体的には、以下の施策が考えられます。

組織再編事業戦略に合わせて組織体制を再構築事業戦略に合致した人材配置
人材マネジメント必要なスキルや経験を持つ人材を育成・確保従業員のスキルアップのための研修や教育プログラムを実施
新規事業の開拓市場環境や顧客ニーズの変化を分析し、新規事業を開拓社内ベンチャー制度の導入や外部企業との協業など

事業再構築は、経営破綻寸前の企業だけではなく、業績低迷に悩む企業にとっても有効な手段です。

ターンアラウンドマネジメントの過程で直面する課題

ターンアラウンドマネジメントの過程で直面する課題には、以下のようなものが挙げられます。

  • 財務危機を乗り越えるための資金調達戦略
  • コスト削減

それぞれ見ていきましょう。

財務危機を乗り越えるための資金調達戦略

財務危機を乗り越えるためには、状況に合わせた最適な資金調達方法の選択が重要です。

以下、代表的な資金調達方法とそれぞれのメリット・デメリットをまとめました。

メリットデメリット
銀行融資比較的金利が低く、返済期間も長めに設定できる審査基準が厳しく、財務状況によっては融資を受けられない場合がある
私募債銀行融資よりも比較的審査基準が緩く、融資を受けられる可能性が高い金利が高めに設定されることが多い
事業売却短期間でまとまった資金を調達事業の一部または全体を手放す必要
公的支援金利が低く、返済猶予などの優遇措置を利用可能審査基準が厳しく、手続きが長期化
事業再生ファンド財務状況が悪化した企業でも資金調達が可能経営権の大半を譲渡する必要がある

資金調達を行う際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 返済能力を考慮する
  • 資金調達コストを比較する
  • 専門家のアドバイスを受ける

資金調達を行う際には、複数の方法を比較検討し、最適な方法を選択する必要があります。

コスト削減

企業再建を目指す上で、コスト削減は避けられない課題の一つです。特に人件費は企業全体の支出の中でも大きな割合を占めるため、リストラが検討されることも少なくありません。

しかし、安易なリストラは従業員の士気を低下させ、優秀な人材の流出を招く可能性があります。人材リストラは、経営状況の悪化や事業再構築に伴い、人員過剰を解消するための一つの手段です。

しかし、リストラは最後の手段であることを常に念頭に置き、慎重に判断する必要があります。リストラが必要かどうかを判断する基準としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 業績悪化の深刻度
  • 人材配置の適正性
  • 固定費削減の余地

リストラは従業員の生活に大きな影響を与えるため、極力回避すべきです。解雇を回避するための代替案としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 早期退職制度
  • 休職制度
  • 賃金カット
  • 業務分担の見直し

リストラに頼らず、雇用維持とコスト削減を両立できるよう、さまざまな施策を組み合わせることが重要です。

ターンアラウンドコンサルタントの選び方

ターンアラウンドコンサルタントを選ぶ際には、以下の点を確認しましょう。

  • 実績と経験
  • 費用対効果

具体的な確認する主なポイントを見ていきましょう。

実績と経験

ターンアラウンドコンサルタントを選ぶ際に重要な要素の一つは、実績と経験です。

過去の成功事例を多く持ち、さまざまな業種・業態の企業再建を経験しているコンサルタントであれば、的確なアドバイスや支援を受けられます。

具体的には、以下の点を確認しましょう。

  • 過去の成功事例
  • 類似業種での経験
  • 専門的な知識・スキル

実績や経験は、コンサルタントの能力や信頼性を判断する重要な指標です。複数のコンサルタントを比較検討し、最適なコンサルタントを選ぶようにしましょう。

費用対効果

コンサルタントを選ぶ際、費用対効果は重要な判断基準です。

経営危機に陥った企業にとって、コンサルティング費用は大きな負担となる可能性がありますが、適切なコンサルタントを選ぶことで、その投資以上の価値を得られます。

費用対効果を評価する際は、コンサルタントの過去の実績を詳細に検討する必要があります。具体的な数字、例えば再建に成功した企業の業績改善率や、債務削減額などを確認しましょう。

さらに、コンサルタントが提案する戦略の実現可能性や、自社の状況への適合性の慎重な評価が大切です。

短期的な成果だけではなく、長期的な企業価値向上につながる提案であるかどうかも重要な判断要素となります。

まとめ

ターンアラウンドマネジメントは、経営危機に陥った企業を再建するための有効な手段です。

しかし、成功するためには、慎重な計画と実行、そして経験豊富なターンアラウンドコンサルタントの支援が必要です。

本記事では、ターンアラウンドマネジメントの成功事例やポイントを解説しました。

企業再建を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

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この記事を書いた人

企業の管理部に3年在籍。
人事やマーケティングなどの業務にも携わった経験を活かし専門的な用語や知識をわかりやすく解説することを心がけています。
行政書士試験にも合格しており、行政書士補助者として起業家サポートを業務に携わった知識と経験もあるため、補助金や助成金、マネジメントについても熟知しています。
これまで培った知識や経験を元に、経営者の方に役立つ情報をお届けします。

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