信用調査(与信調査)は、取引先企業に売掛金を支払う能力があるか確認することを目的に行われます。取引先企業に対して失礼にあたる調査ではなく、企業間取引では与信管理の一環として一般的に行われている調査ですし、安心安全な取引のためには必要不可欠の調査です。
この記事では、信用調査(与信調査)の概要、流れ、方法、ポイントを解説します。
信用調査(与信調査)とは
信用調査(与信調査)とは、新規に取引を始めるに当たり、取引先企業の支払い能力などの金銭面での信用度を確認するために行う調査です。
信用調査には、様々な手法がありますが、大きく分けると、自社で行う方法と外部の信用調査会社に委託して行う方法があります。
信用調査(与信調査)と与信管理の違い
与信管理は、取引先企業から売掛金を回収できなくなるリスクを最小限に抑えるための管理活動のことです。信用調査は与信管理の一環として行われます。
新規に取引を開始する場合の与信管理は次のような流れで行われます。
- 取引先企業の情報収集と分析
- 取引先企業の信用力の評価
- 取引先企業の与信限度額の決定
- 取引先企業との契約交渉
信用調査(与信調査)はこの過程のうち、取引先企業の情報収集と分析のために行われます。
その後の取引先企業の信用力の評価、与信限度額の決定、契約条件の交渉に必要な情報を集めて分析するための非常に重要なプロセスなので、精度の高い情報を集めることが大切です。
与信管理は新規取引の時だけ行うものではありません。取引開始後も取引先企業の業績などの情報を収集し続け、業績が悪化している場合は、与信限度額を下げ、契約条件を変更するといったリスク管理を行う必要があります。
そのために、再度、信用調査を行うこともあります。
信用調査(与信調査)の主な手法
信用調査(与信調査)には、主に4つの方法があります。社内調査、直接調査、外部調査、依頼調査です。それぞれ見ていきましょう。
社内調査
社内調査は内部調査とも言われますが、自社内にある情報を集めることにより調査する方法です。
過去に取引をしたことがある場合に、取引当時の取引履歴や取引資料を収集するとともに、当時の取引担当者にヒアリングを行うなどして、できる限り詳しい情報を集めます。
手間や費用をほとんどかけずに行うことができますが、過去に取引関係があった取引相手の調査にしか使えないこと、過去の取引情報のため取引先企業の現状に沿うとは限らないこと、限定的な情報しか集められないといったデメリットがあります。
直接調査
直接調査とは、取引先企業を直接調査する方法です。実際に取引先企業に訪問してみる訪問調査の他、電話調査、メールやFAXによる調査方法もあります。
取引先企業がインターネットなどで公開している情報だけでは把握しにくい情報を掴むのに役立ちます。
特に訪問調査の場合は、取引先企業の社内の雰囲気、社員の仕事の取り組み方、訪問客への対応、社内の設備や商品の在庫状況などを知る良い機会になります。
電話調査、メールやFAXによる調査でも回答内容などから、社員の士気や雰囲気を感じ取れることもあります。
ただ、直接調査はやり方によっては、こちらが取引先企業を信用していないために調べているものと疑われてしまい、その後の取引関係で悪い影響を及ぼしてしまうこともあります。
特に訪問調査の場合は、「取引先企業に興味がある」ので話を聞かせてほしいというスタンスを維持すべきで、信用調査である点は伏せたほうが無難です。
外部調査
社内や取引先企業以外の第三者が保有する情報を基に信用調査(与信調査)を行う方法です。
官公庁調査、検索調査、側面調査の3つが主な外部調査方法になります。
官公庁調査は、法務局の商業法人登記情報、不動産登記情報が主な調査対象になります。
特に、商業法人登記情報からは、商号や本店所在地の変更頻度から過去の不祥事を隠していないか予測できることがあります。資本金の額や変更の変遷などから経営状況の推測も可能です。
不動産登記情報は、取引先企業の保有する土地や建物にどのような担保権が設定されているかがポイントです。抵当権が1番、2番、3番とたくさん設定されている場合は、資金繰りの悪化も懸念しなければなりません。
また、営業許認可が必要な業種の場合は、監督官庁が保有する情報に当たることもできます。例えば、取引先企業が建設業許可を取得している場合は、許可行政庁が建設業許可業者名簿を公開していますし、許可申請書及び変更届出書の内容、経営事項審査結果などの情報を入手することができ、詳細な経営状況を把握することが可能です。
検索調査は、インターネットで集められる情報を収集する方法です。主に取引先企業の公式ホームページ以外の第三者が提供する企業情報データベースに当たります。
財務関係の情報だけでなく、取引先企業が販売している商品の口コミサイトの情報、求人情報サイト、SNS上での話題や評判などにも目を向けるべきでしょう。
求人情報サイトでは、常に求人を募集していれば、業績が良いとは限らず、離職率が高く人材の定着率が悪い可能性もあります。また、社員の口コミが読める転職サイトの情報も社内の様子を知る有力な手がかりになります。
なお、口コミサイトでは、ステマなどが行われている可能性も考慮すべきです。
側面調査は、直接調査とセットで行われるのが一般的で、直接調査によって得られた情報が正しいかどうかの裏付け調査を行います。
例えば、取引先企業が他に取引している企業、取引先企業の主要取引銀行、事務所や店舗の建物賃貸人などに対して照会する形になります。
依頼調査
依頼調査とは、企業調査を専門的に行っている調査会社に信用調査を依頼する方法のことです。
社内に信用調査のスキルを持つ人材がいない場合は、依頼調査を行ったほうが正確な情報をつかみやすいでしょう。
信用調査(与信調査)の報告書
信用調査(与信調査)を行った後は、その報告書を作成します。主に記載する内容は次の通りです。
- 会社基本情報
- 業績推移
- 事業構成
- 不良債権の有無
- 信用要素評価
- その他考慮すべき事項
会社基本情報
本店所在地、資本金、設立日、事業内容、従業員数などをまとめます。
古くから営業している会社や本社を長年同じ場所において地元に根づいているなど古い歴史のある企業、資本金や従業員数が多い企業は信用度が高いと言えます。
業績推移
売上高や営業利益、経常利益、当期純利益などの業績の推移をまとめます。利益が多く業績が伸びていれば、信用度が高くなります。
事業構成
企業がどのような事業を手掛けているか、また、各事業の売上高の割合をまとめます。
多角経営を行っていてそれぞれの業績が好調であれば、信用度が高いと言えます。もちろん、主力事業が少なくても、企業の規模に見合った十分な業績を上げていれば、信用できる企業と言えます。
不良債権の有無
取引先企業の主要取引銀行などに照会し、回収不能となった債権があるかどうか確認した情報をまとめます。
不良債権がある場合は、取引を再検討すべきことになります。
信用要素評価
信用調査の結果をもとに信用要素の点数化、ランク付けなどを行います。調査会社に信用調査を依頼した場合に付けられることが多いです。
その他考慮すべき事項
業績などの数字以外に考慮すべき項目です。SNSでの評価、直接調査で得られた感触などをまとめます。
信用調査(与信調査)結果で注目すべき点
新規に取引を始めるに当たり、信用調査(与信調査)を行う場合は、特に次の3点について考慮すべきです。
- 売掛金を支払える能力があるかどうか
- 資産・財務状況は良好か
- 会社や経営者が信用できるか
売掛金を支払える能力があるかどうか
新規取引の際に最も気にかけることは、売掛金を回収できるかどうかという点です。
取引先企業に売掛金の支払い能力がどの程度あるかは、売上の推移、受注状況、資金状況などから判断します。
また、公表されている数字だけでなく、直接調査を行い、在庫状況、返品の多寡、社員の働き方や士気なども考慮すべきです。
例えば、過剰在庫を抱えている場合は、仕入れ・製造コストを回収できていないわけですから、キャッシュフローが悪化している可能性が高いです。売掛金を支払えないどころか、連鎖倒産に巻き込まれかねません。
資産・財務状況は良好か
会社の資産や財務状況も考慮すべき調査項目です。
会社の資産や財務状況が良好であれば、資金調達が行いやすく、資金繰りに余裕があると言えるため、売掛金回収時に不安を感じることはないでしょう。
取引先企業が所有する不動産に設定されている担保権が少なく、返済によって抹消されるなどしていれば、問題ないと言えるでしょう。
会社や経営者が信用できるか
創業年が古く、長年地元に根づいた企業は、信用度が高く、安心して取引を行うことができます。
また、会社の経営者の人柄、社内の雰囲気も大切です。継続的な取引を検討している場合は、現在の経営者だけでなく、後継者も育っているのか確認しましょう。
経営者歴が長ければ良いとは限りません。古い考え方に固執しているような方だと、後継者が育っていなかったり、目まぐるしく変化する市場情勢に対応できていない可能性もあります。
創業したばかりでも、経営者のビジョンが明確で共感できる点があり、社内の雰囲気も良ければ、今後業績が伸びることを期待して取引するのも良いと判断できます。
信用調査(与信調査)で信用調査会社を選ぶ際のポイント
社内に信用調査(与信調査)を行える人材がいない場合や、より慎重に信用調査を行いたい場合に信用調査会社の活用を検討すべきでしょう。
信用調査会社を選ぶ際のポイントは次のとおりです。
希望する納期までに報告書を入手できるか?
信用調査には時間がかかるため、依頼した日のうちに調査報告書を受け取れることはほとんどありません。社内での会議や取引先企業との契約締結交渉までに、調査報告書を受け取ることができるかどうか確認しましょう。
総合的な調査と専門的な調査のどちらを依頼したいのか?
信用調査会社には、総合信用調査会社と専門信用調査会社の2タイプがあります。
総合信用調査会社は、地域や業種に関係なく、一般的な信用調査を行います。専門信用調査会社は地域や業種に特化した専門的な調査を行います。
取引先企業が特殊な業界の場合は、総合信用調査会社の一般的な調査だけでは十分な情報が得られないこともあるため、専門信用調査会社の利用を検討すべきことになります。
また、取引先企業が海外企業の場合は、海外企業の信用調査を専門的に手掛ける信用調査会社に依頼した方が、正確な調査報告書を入手できます。
調査費用は適切かどうか?
信用調査会社の調査費用は、調査内容によって大きく異なります。予想外の費用がかかってしまう事態を防ぐためには、依頼する段階で、調査してほしい内容を正確に伝えることが大切です。
複数の信用調査会社に調査内容の詳細を伝えた上で、相見積もりを出してもらうのが最善です。
その上で、見積書を見比べて、適切な相場を見極めて、明確な見積もりを出してくれた信用調査会社に依頼するとよいでしょう。
調査報告書が自社のニーズに合っているか?
信用調査会社の調査報告書は、テキストだけでなく、表やグラフを用いて、見やすくまとめているのが一般的です。
大差はないことがほとんどですが、念のため、見積もりの際に調査報告書のサンプルを示してもらいましょう。
自社が知りたい情報を最も的確にまとめた調査報告書を用意してくれる信用調査会社に依頼すると、社内でも使いやすいはずです。
信用調査(与信調査)で信用調査会社を利用するメリット
信用調査会社を利用するメリットは次のとおりです。
- 自社で信用調査を行う手間や時間を省ける
- 客観的な調査が可能となる
自社で信用調査を行う手間や時間を省ける
信用調査は、インターネットで情報を集めて終わりという簡単なものではなく、直接調査など様々な調査が必要になり、手間も時間もかかります。他に仕事を抱えている方がその仕事の合間にやっても満足な調査はできません。
信用調査会社に委託してしまえば、こうした手間や時間をカットできます。
客観的な調査が可能となる
信用調査は自社の主観を交えずに実施するのが基本ですが、取引先企業が同じ業界の場合、業界の常識に囚われて、客観的な信用調査ができないこともあります。
また、取引先企業と取引をしたい気持ちが強い状態で信用調査を行うと、前のめりになってしまい、リスクを見逃してしまう可能性もあります。
その点、信用調査会社ならば、業界の常識や利害関係にとらわれず、客観的な信用調査を行いやすいと言えます。
信用調査(与信調査)で信用調査会社を利用するデメリット
信用調査会社を利用する場合のデメリットは次のとおりです。
- 費用がかかる
- 取引先企業に信用調査会社を使ったことが知られる可能性もある
費用がかかる
信用調査会社に依頼する場合は、そのための費用がかかります。適正な費用ならば不満は出ないと思いますが、調査費用が高額な場合は利用をためらうかもしれません。
また、費用をかけた割には、大した報告内容が上がってこないことも考えられます。
特に、取引先企業が設立間もない会社の場合は、過去のデータがほとんどなく、信用調査に必要な十分な資料が揃わないこともあります。
そのような場合は、自社で調査したのと大して変わらないような内容しか上がってこないかもしれません。
取引先企業に信用調査会社を使ったことが知られる可能性もある
一般的に信用調査会社は、独自の情報入手ルートを持っているため、取引先企業に信用調査を行っていることが知られてしまう心配はないと言えるでしょう。
ただ、信用調査会社といえども、直接調査を行う際は、調査員を取引先企業に派遣するしかありません。この場合は、取引先企業は自社に対して信用調査を行っている会社があることを認識することになります。
もちろん、調査員はどの会社から依頼されているのか口外することは絶対にありませんが、調査が入ったタイミングから、調査を依頼した企業を推測することはできます。
しかし、企業間取引のために信用調査を行うのは、一般的なことなので、信用調査を行っていることが取引先企業に知られたとしても、関係が悪化するケースは少ないでしょう。
まとめ
信用調査(与信調査)は、与信管理の一環として行われるもので、安心安全な企業間取引のためには必要不可欠な調査です。
売掛金が回収できなくなってしまうリスクを最小限に抑えるため、正確な情報を収集して分析することが大切です。
社内に信用調査(与信調査)を行える人材がいない場合は、信用調査会社の利用も検討しましょう。