【徹底比較】事業部制VSカンパニー制|成功企業から学ぶ円滑な運用のノウハウ

事業部制とカンパニー制は、多角経営を行う企業において、現場に権限を委譲することで迅速な意思決定と行動を可能にし、経営陣は全社的な経営に集中できる体制です。

事業部制とカンパニー制の違いは、独立採算制であるかどうか、資金調達、投資の権限、人事権の有無です。現場の権限が大きければ大きいほど、めまぐるしく変わる現在の市場状況に迅速に対応できるといったメリットがあります。

一方で、現場へ権限を委譲しすぎてしまうことによるデメリットもあります。

事業部制とカンパニー制の特徴について見ていきましょう。

目次

事業部制とは

事業部制とは、本社部門の下に、事業ごとに分けられた部署を配置する組織形態のことです。

事業部ごとに、生産、購買、営業、マーケティングなどの事業遂行のための機能が設けられているため、日々のビジネス活動で、他の部署との連携が必要なくなり、事業部ごとに活動できる点が特徴です。そのために必要な権限も事業部門に委譲されています。

事業部制は次の3つの種類に分類できます。

  • 製品別事業部制
  • 地域別事業部制
  • 顧客別事業部制

それぞれの分類の特徴を確認しましょう。

製品別事業部制

製造する製品分野や提供するサービス内容ごとに事業部を設ける形態です。

例えば、製造業であれば、家電事業部、家具事業部、建材事業部などのように製造する製品ごとに事業部を設けます。

飲食サービス業であれば、カフェ事業、レストラン事業、居酒屋事業のように提供するサービスごとに事業部を設けます。

地域別事業部制

地域ごとに事業部を設ける形態です。

国内事業中心であれば、関東地方事業部、関西地方事業部、中部地方事業部といったまとまった地域ごとに事業部を設けます。

海外展開している企業ならば、国ごとに事業部を設けることもありますし、ヨーロッパ事業部のように広範な地域ごとに事業部を設けることもあります。

顧客別事業部制

ターゲットとする顧客の特性ごとに事業部を設ける形態です。

子供や幼児をターゲットとする事業部、若い女性をターゲットとする事業部、シニアの女性をターゲットとする事業部といった事業部を設けて、それぞれのターゲットに合わせた商品開発や訴求を行います。

事業部制の成功企業例

事業部制は、アメリカにおいて、1920年にデュポンやGMが導入し、広まった比較的古い形態です。

日本では、1933年に松下電器産業(現パナソニック)が導入したことがきっかけで広まりました。松下電器産業が事業部制を導入した目的は、自主責任経営の徹底と経営者の育成でした。

現在では、持株会社であるパナソニック・ホールディングス株式会社を頂点に主に8つの事業会社が設けられ、その事業会社の中にも、事業部門が設けられています。事業会社制という組織形態により、それぞれの事業の強みを発揮できる体制にしています。

パナソニックが導入した事業部制は、創業者である松下幸之助の知名度と相まって、日本の様々な企業でも参考にされて取り入れられています。

カンパニー制とは

カンパニー制は事業部制と非常によく似た企業形態ですが、多角経営を行う企業の間で、近年、注目されるようになった事業体制です。

カンパニー制は事業分野ごとに組織を分けた上で、それぞれの組織を独立した会社(カンパニー)として扱う事業体制です。

一つの会社の中に複数の会社(カンパニー)が存在しているイメージになります。それぞれのカンパニーには、執行役員などの代表者がおり、投資・人事・予算などの権限と責任を有し、独立採算制を採っています。

事業部制とカンパニー制の違い

カンパニー制は事業部制との違いが分かりにくいこともありますが、事業部制の欠点を補う目的で導入されるようになりました。

事業部制とカンパニー制の大きな違いは、次の点が挙げられます。

  • 独立採算制であるかどうか
  • 資金調達、投資の権限、人事権があるかどうか

事業部制では、それぞれの事業部門に一定の権限が譲渡されているものの重要な意思決定や経営、人事に関する権限は、本社部門や企業全体からの承認を得なければならないのが一般的です。その分、意思決定に時間がかかってしまいがちです。

事業部門はそれぞれに割り当てられた予算を活用して利益を追求する活動を行うことはできるものの、経営や人事権は本社部門が握っているわけです。

特に、事業を任されているのに、本社部門の理解が得られないと事業拡張に必要な資金を調達したり投資を行ったり、人材を確保したりすることができない点は、大きな欠点と言えます。

一方、カンパニー制では、独立採算制なので、それぞれのカンパニーが行うことは、カンパニー内で決定すればよく、本社部門の承認は必要ありません。

また、それぞれのカンパニーが資金調達、投資の権限、人事権を握っているので、設備投資や新規事業のための人材確保について本社部門の承認を待つ必要はありません。

その分、カンパニーのトップの責任は重いです。貸借対照表、損益計算書をカンパニーごとに作成するため、カンパニーのトップの経営責任が明確になり、実質的に中小企業の経営者と変わらない立場になります。

カンパニー制は、小さな会社のように身軽に動き回れる組織になるため、意思決定や判断スピードが速くなり、急速な技術発展、顧客ニーズの多様化により、めまぐるしく変わる現在の市場状況に、より迅速に対応できます。

カンパニー制の成功企業例

カンパニー制は事業部制の欠点を見直す目的で、アメリカで導入が広がりました。

日本国内では、1994年にソニーがこれまでの事業部制を廃止してカンパニー制を導入した例が知られています。ソニーはその時期、赤字に陥っていましたが、カンパニー制導入後に、業績を大幅に改善したことから、カンパニー制導入の成功例として注目されています。

現在では、様々な企業がカンパニー制に注目し、実際に導入に踏み切る企業も出ています。

事業部制のメリット

事業部制とカンパニー制のメリット、デメリットを見ていきましょう。まずは、事業部制のメリットからです。

  • 本社部門と事業部門の役割分担が明確になる
  • 利益の出る事業が可視化されやすい

本社部門と事業部門の役割分担が明確になる

事業部制の下では、それぞれの事業部が事業遂行に必要な権限を委譲されて、その事業に専念します。一方、本社部門は、個別の事業の統括から離れて、全社的な経営に集中することができます。

すべての事業を本社が統括している組織に比べると、相対的に本社部門の負担が軽くなり、経営陣は経営に必要な業務のみに専念できる点がメリットです。

利益の出る事業が可視化されやすい

全事業を本社部門が統括している組織に比べて、事業部制の場合は、利益の出る事業部門や採算の取れる事業部門が可視化されやすい点がメリットです。

経営陣としては、それぞれの事業部門の損益計算書を確認し、今後利益が出ないと見込まれる事業部門は廃止したり、切り離して売却する決断を下したり、将来性がある事業部門を創設したり、経営資源を集中させるといった判断を下しやすくなります。

事業部制のデメリット

次に、事業部制のデメリットを見ていきましょう。

  • 経営資源の無駄が生じやすい
  • 事業部門ごとの壁が生じやすい
  • 事業部門間で格差が生じやすい

経営資源の無駄が生じやすい

事業部制の下では、それぞれの事業部が個別に生産設備を保有することもあります。

採算の取れない事業部門でも個別に生産設備を有している場合は、稼働率が低い上にコストがかかるなどの無駄が生じてしまう可能性があります。

事業部門ごとの壁が生じやすい

事業部制の場合、事業部ごとの縦割り組織になってしまうため、事業部間の交流が生じにくくなり、全社一丸で行うべき新製品開発や新規事業の立ち上げといったプロジェクトがやりにくくなることがあります。

事業部門間で格差が生じやすい

事業部制の場合、いわゆる花形の事業部門と窓際の事業部門といった格差が生まれやすく、花形の事業部門の社員はモチベーションが高い一方、窓際の事業部門に飛ばされた社員はモチベーションが低下してしまうこともあります。

また、花形の事業部門には、経営資源が集中的に投下される一方、窓際の事業部門は予算が足りず、思ったような事業展開ができず、業績がさらに悪化するといった悪循環に陥ることもあります。

カンパニー制のメリット

次にカンパニー制のメリットとデメリットを見ていきましょう。まずは、カンパニー制のメリットです。

  • 意思決定のスピードがより迅速になる
  • カンパニー同士の競争により社内が活性化する
  • 経営スキルを有する人材が育つ

意思決定のスピードがより迅速になる

カンパニー制では、それぞれのカンパニーに、経営、人事に関する権限が与えられます。実質的に大企業の内部に中小企業が設けられていると言えるでしょう。

大企業の場合、物事を決めるにしても、意思決定のプロセスが複雑になって時間がかかり、中小企業と比べても機動性に劣る点が欠点とされてきました。

カンパニー制は独立採算制なので、計画の立案から実行までのプロセスを中小企業のように迅速に行うことができます。

カンパニー同士の競争により社内が活性化する

カンパニー制を導入した場合、それぞれのカンパニーは、同じ企業に属しながら、実質的には別会社の位置づけになります。

資金調達もカンパニーが個別に工夫して行うことができ、本社部門から予算が配分されないことで悩んだり、社員のモチベーションが下がってしまうこともありません。

カンパニー同士で競争する環境が生まれ、切磋琢磨しあう形になるために、それぞれのカンパニーの業績アップを図れますし、結果として企業全体の業績向上につながることが期待できます。

経営スキルを有する人材が育つ

カンパニー制では、それぞれのカンパニーのトップは、会社法上は取締役ではなく、執行役員などの位置づけになることも多いですが、実質的に、中小企業の経営者と同様の能力が求められます。

そのため、社員がカンパニーのトップを経験することにより、必然的に経営スキルが身に付きます。

カンパニー制を採用していない企業では、取締役に抜擢されるまでは、経営に関わるスキルを身につけるチャンスがなく、経営人材を育てにくいことが問題になっています。

その点、カンパニー制ならば、カンパニーのトップの経験により、経営に関わるスキルを磨くことができます。

カンパニー制のデメリット

次にカンパニー制のデメリットを見ていきましょう。

  • 組織横断のシナジーが生まれにくい
  • 重複部門が生じてしまいコストが増える
  • 裁量が大きいだけに不正や隠ぺいのリスクもある

組織横断のシナジーが生まれにくい

カンパニー制では、それぞれのカンパニー同士のつながりが希薄化しがちです。

そのため、事業部門を横断するような新規事業が発案されにくい点が欠点です。

例えば、現在では、家電にIT機能を取り入れることも多くなっていますが、白物家電部門とIT部門が別のカンパニーだった場合、家電とITの融合による新しいIOT家電を作りにくいこともあります。

重複部門が生じてしまいコストが増える

カンパニー制では、それぞれのカンパニーが独立した企業のような体制になるので、人事、総務、経理などの部門もカンパニーごとに設けられます。

そのため、人事、総務、経理を本社部門に集約できる事業部制と比べるとコストがかかってしまう点が欠点と言えます。

裁量が大きいだけに不正や隠ぺいのリスクもある

カンパニー制では、それぞれのカンパニーは独立した企業とほぼ同じ体制になります。

カンパニーごとの収益力や開発力などが比較されやすく、競争が生まれやすい反面、競争を意識するあまり、カンパニーのトップによる不正や不都合な情報の隠ぺいが行われるリスクもあります。

カンパニーごとに独立していて、本社部門や他の部門からのチェックが入りにくいだけに、こうしたリスクは大きいと言えます。

商品やサービスが重複してしまうこともある

カンパニー制は、カンパニーの判断で新商品の開発を行い、適切なタイミングで市場へ投入しやすいメリットがある一方で、各カンパニーが似たような新商品を開発して投入してしまうこともあります。

もともと同じ会社で、強みや得意分野も同じなので、こうしたケースは起きやすいと言えます。

このような場合、消費者は、同じメーカーの商品なのに何が違うのか分からず混乱してしまい、どちらも選ばれなくなることもあります。

事業部制VSカンパニー制 どっちが優れているか?

事業部制とカンパニー制のどちらが優れているかは一概には結論を出すことはできません。

例えば、ソニーは、カンパニー制をいち早く導入した企業として知られていますが、現在では、カンパニー制を廃止して再び事業部制に回帰しています。

カンパニー制は、本来、経営陣が行うべき、経営資源の選択と集中の責任を各カンパニーに丸投げする経営ということもできます。

あるカンパニーが手掛ける事業の将来性が高く、経営陣としては、他の事業を切り離してでも、経営資源をその事業に振り向けたいと考えたとしても、カンパニー制の場合、各カンパニーから資金などを回収して、その事業だけに投下するといった取捨選択ができなくなってしまいます。

事業部制ならば、経営陣の責任で、経営資源の選択と集中を行うことができ、将来性のある事業には、カンパニー制で確保できる経営資源とは比較にならない規模の経営資源を投下することができます。

一方で、カンパニー制は、少数の事業に絞ることによる経営判断の誤りを回避しやすく、複数の事業からバランスよく収益を確保できるため、安定経営を目指しやすい体制ということができます。

事業部制導入のポイント

事業部制を導入する際は、事業部の業務遂行に関しては、事業部に権限を委譲し、全面的に任せることができます。

一方、経営陣としては、各事業部門の採算性や収益、将来性を見極めた上で、それぞれの事業部門に投下する経営資源を割り当てなければなりません。

時としては、事業部門を統廃合したり、切り離すといった決断も下さなければならないことがあります。

カンパニー制導入のポイント

カンパニー制を導入する際は、各事業部門に対しては、経営面の権限も含めて全面的に委ねることになります。

経営陣としては、カンパニーの経営への干渉を最小限にとどめなければなりません。

一方で、結果を求めすぎる結果至上主義に陥ることを防止したり、業績の粉飾や不都合な事故の隠ぺいが起きないように一定の監視が必要になります。

事業部制とカンパニー制に共通する導入ポイント

事業部制とカンパニー制はどちらも事業部門ごとの縦割りの組織になってしまうため、事業部門間のシナジー効果が生じにくくなることが欠点です。

この場合、多角経営のシナジー効果を生じさせるためには、経営陣や本社部門が先導的な役割を果たすことが求められます。例えば、事業部門間で人事交流の機会を増やしたり、あえて事業部門の垣根を超えた組織を設けるといった対策が必要です。

まとめ

事業部制とカンパニー制は、多角経営を行う企業が、収益の柱となる事業を複数抱えている場合に、事業部門別に分けて整理する際に有意義な体制ということができます。

事業部制により、採算の取れる事業、利益の高い事業、将来性のある事業がそれぞれ可視化されるため、経営資源の選択と集中を行いやすくなります。

また、カンパニー制に移行することで、それぞれの事業からバランスよく収益を上げることができ、企業全体の活性化につながります。

事業部制とカンパニー制にはそれぞれメリットデメリットがあるため、違いを理解した上で導入の可否を決定すべきでしょう。

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この記事を書いた人

普段は、業務歴20年の建設業支援専門の行政書士です。文章を書くことが好き&得意で、行政書士業務の傍ら、公的機関などで不動産、法律関係の専門性の高い記事を執筆。専門的な資料を精読したうえで、一般の方に向けて、正確かつ分かりやすく書くことを心がけており、好評を頂いております。ライターの仕事は知識を吸収し整理することにもつながるので、これからもコツコツ続けていきます。

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