事業の生産性の向上や、人手不足問題の解消手段として、デジタル技術の利活用は益々、重要になっています。
そこで今回は、中小企業のデジタル化推進に活用できる「IT導入補助金」について、中小企業診断士が解説します。
IT導入補助金とは?
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。
詳細は後述しますが、IT導入補助金の特徴は、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組み申請する必要があることです。
IT導入補助金の概要
IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)は、経済産業省が所管する中小企業のデジタル化を強力に推進する制度です。
中小企業・小規模事業者等がITツールを導入し、業務効率化や売上向上を実現することを目的としています。
どのような事業が対象となるか?
2024年6月現在の対象となる事業は以下の通りです。
本記事執筆時点の「IT導入補助金」では、単純なホームページ構築やECサイト構築については対象外となっている点には注意が必要です。対象ツールは公募回によって変わる可能性もあるため申請の際は必ず最新の情報を確認してください。
申請枠 | 対象事業・支援内容 | 補助対象ツール概要 |
---|---|---|
通常枠 | 自社の課題にあったITツールを導入し、業務効率化・売上アップをサポートする枠事業のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステムの導入を支援 | 供給・在庫・物流・総務・人事・給与・労務・顧客対応販売支援 |
インボイス枠 (インボイス対応類型) | インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、PC・ハードウェア等を導入し労働生産性の向上をサポートする枠。インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフトが対象。 | 会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・PC/ハードウェア(条件有) |
インボイス枠(電子取引類型) | インボイス制度に対応した受発注システムを商流単位で導入する企業を支援する枠。インボイス制度に対応した受発注システムが対象。 | 受発注システム |
複数社連携IT導入枠 | 業務上つながりのある「サプライチェーン」や、特定の商圏で事業を営む「商業集積地」に属する複数の中小企業・小規模事業者のみなさまが連携してITツールを導入し、生産性の向上を図る取り組みを支援する枠。 | 上記ツール |
セキュリティ対策推進枠 | サイバー攻撃事案の増加により高まる様々な潜在リスクの低減を支援する枠。 | サイバーセキュリティサービス |
IT導入補助金の申請枠と補助率・補助金額
IT導入補助金は上記の対象事業で挙げた申請枠ごとで補助率や補助金額が異なっています。
以下の表の通り非常に複雑となっているため、申請をする際は後述する「IT導入支援事業者」に確認と相談のうえ検討することをお勧めします。
通常枠 | インボイス枠 | 複数社連携IT導入枠 | セキュリティ対策推進枠 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
インボイス対応類型 | 電子取引類型 | ||||||||
補助額 | 5万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 | ITツール | PC・タブレット等 | レジ・発券機 | ITツール | (1)インボイス対応類型の対象経費⇒左記と同様(2)上記(1)以外の経費補助上限額50万円×グループ構成員数(1)+(2)で補助上限3,000万円(3)事務費・専門家費補助上限:200万円 | 5万円~100万円 | |
下限なし~350万円 | ~10万円 | ~20万円 | ~350万円 | ||||||
~50万円部分 | 50万円超~350万円部分 | ||||||||
補助率 | 1/2以内 | 3/4以内※小規模事業者は4/5 | 2/3以内(※1) | 1/2以内 | 中小企業・小規模事業者:2/3以内その他事業者等:1/2以内 | (1)インボイス対応類型と同様(2)・(3)2/3以内 | 1/2以内 | ||
補助対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア関連費、導入関連費 | クラウド利用費(最大2年分) | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費 | サイバーセキュリティサービス利用料(最大2年分)(※2) |
(※1)交付額が50万円調の場合の補助率は、当該交付額のうち50万円以下の金額について3/4、50万円超の金額については2/3。
(※2)「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているいずれかのサービス
参考:IT導入補助金2024
IT導入補助金の基本要件
IT導入補助金の補助対象者、ITツールの要件は以下の通りです。
補助対象者
- 中小企業者
- 小規模事業者
ITツールの要件
ITツールの要件として、1種類以上の業務プロセスを保有するソフトウェアの申請が必要で、汎用システムのみでの申請はできません。以下に概要を紹介します。
種別 | 業務プロセス |
---|---|
「業務プロセス」に該当するソフトウェア | 顧客対応・販売支援 決済・債権債務・資金回収管理 供給・在庫・物流 会計・財務・経営 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム その他固有のプロセス |
「汎用プロセス」に該当するソフトウェア | 汎用・自働化・分析ツール (業種・業務が限定されないが生産性向上への寄与が認められる業務プロセスに付随しない専用ソフトウェア) |
IT導入補助金の補助対象
IT導入補助金ではシフトウェアの購入以外でも補助対象となる経費があります。補助対象経費は以下の通りです。
ソフトウェア | ソフトウェア購入費 クラウド利用料 |
---|---|
オプション | 機能拡張 データ連携ツール セキュリティ |
役務 | 導入コンサルティング 導入設定/マニュアル作成/導入研修 保守サポート |
IT導入補助金の対象となるITツールやサービスは幅広くあります。対象ツールの一部を紹介します。
- 業務効率化ツール
- クラウド型会計ソフト
- CRM(顧客関係管理)システム
- 業務管理システム(ERP)
- 生産管理システム(MES)
- 販売促進ツール
- マーケティングオートメーション(MA)ツール
- ウェブ分析ツール
- テレワーク支援ツール
- オンライン会議システム
- プロジェクト管理ツール
対象ツールはIT導入補助金のホームページから「IT検索ツール」から検索が可能です。導入を検討しているツールがあれば以下のURLより検索をしてください。
IT導入補助金の申請手続き
IT導入補助金は、IT導入補助金事務局に登録されたIT導入支援事業者と共に申請する補助金です。以下にIT導入補助金ホームページに記載されている申請フローを紹介します。
複雑な手続きも多いため、以下の手順ではなく、先にITツール・IT導入支援事業者を決め、IT導入支援事業者の助言を受けながら申請を進めてもよいでしょう。
申請前に、必ず公募要領を確認し、自社が申請条件を満たしているか確認しましょう。
「GビズIDプライム」アカウント、「SECURITY ACTION」宣言とも申請の際に必須となります。それぞれ1週間程度かかる場合もあるため、事前に準備をしておきましょう。詳細は各専用サイトよりご確認ください。
ITツールの選定前に「みらデジ」で経営課題について把握します。こちらは通常枠では必須要件、インボイス枠とセキュリティ対策推進枠で加点項目となります。
導入するITツールをIT導入補助金ホームページ上の「ITツール検索」より検索し、希望のツールを取り扱っている事業者へ問い合わせをおこないます。
ツールによっては、複数のIT導入支援事業者が同一のツールを取り扱っている場合もあります。その場合は複数の事業者へ問い合わせ、支援内容等を確認し、条件の合うところへ申し込むとよいでしょう。
IT導入補助金活用の成功率を上げる方法
IT導入補助金は、IT導入支援事業者と共に申請します。
計画書の作成も含んだ支援範囲はIT導入支援事業者によって異なるため、支援の範囲も含めて事前にしっかりと確認しておきましょう。
また、申請にあたり以下の点に気を付けることで、IT導入補助金の成功率を上げることができるでしょう。
- ITツールの導入目的と導入後に期待する効果を明確にする
- 複数のIT導入支援事業者から最も条件にあった事業者と契約する
ITツールの導入目的と導入後に期待する効果を明確にする
導入するITツールの選定も含め、ITツールの導入目的と導入後に期待する効果を明確にしておくことで、真に必要なツールの導入ができます。
また、導入後の効果については、IT導入補助金の申請枠の要件に合致しているか確認することも大切です。
複数のIT導入支援事業者から最も条件にあった事業者と契約する
同一の機能を持つITツールは複数のIT導入支援事業者が扱っている場合が多いです。
そのため、複数のIT導入支援事業者に問合せを行い最も条件に合った事業者と契約することをおすすめします。最も条件に合った事業者を選定するためにも自社がITツール導入で期待する効果を明確にしておくことが重要です。
よくある質問
- IT導入補助金はどのくらいの補助が受けられるのですか?
-
補助金額は、導入するITツールの種類や事業規模によって異なります。詳細は公募要領でご確認ください。
- 申請手続きは難しいですか?
-
申請手続きは煩雑に感じる方もいるかもしれませんが、IT導入支援事業者とともに申請を進めるため、不明な点などはIT導入支援事業者に問い合わせながら進めていくとよいでしょう。
- 採択されやすい事業の特徴を教えてください。
-
IT導入補助金に限らず、申請枠の目的に沿った事業が採択されやすいです。特にIT導入補助金は申請枠により目的が異なります。申請枠の目的をしっかりと確認し、導入予定のITツールが目的に沿っているか確認しましょう。
まとめ
IT導入補助金は、ITツールの活用により企業の様々な課題の解決を支援する補助金です。
企業のIT化、DX化はこれから益々、重要となっていきます。IT導入補助金では幅広いITツールが対象となっており、多くの企業の経営課題の解決の一助となることでしょう。
自社のIT化、DX化の際にはIT導入補助金の活用も検討されてはいかがでしょうか。