マーケティング戦略を立てる際、STP分析は重要な役割を果たします。
本記事では、STP分析の基本概念から具体的な方法、実際の活用例までを中小企業診断士がわかりやすく解説します。
マーケティング担当者やビジネスオーナーなど、マーケティング戦略を学びたい方に向けて、効果的な市場分析とターゲティングを行うためのポイントを紹介します。
STP分析とは
STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取ったもので、マーケティング戦略の基本となるプロセスです。
この3つのステップを通じて、企業は市場を細分化し、ターゲットとなる顧客層を選定し、その顧客層に向けて独自の価値を提供する方法を決定します。
セグメンテーション
セグメンテーションは、市場を異なる顧客グループに分けるプロセスです。これにより、企業は各グループに対してより効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
例えば、年齢、性別、所得、ライフスタイルなどの基準で市場をセグメント化します。
セグメンテーションの具体例
具体例として、化粧品市場を考えてみましょう。市場を年齢層でセグメント化すると、10代、20代、30代以上といったグループに分けられます。
それぞれのグループに対して異なる製品やマーケティングメッセージを用いることで、より効果的なアプローチが可能です。
年齢別セグメンテーションの詳細
10代の消費者には、トレンド感のあるパッケージや価格の手頃さが重要な要素となります。
一方で、20代の消費者は品質やブランドの信頼性を重視し、30代以上の消費者はアンチエイジング効果や成分の安全性を重視する傾向があります。
ライフスタイル別セグメンテーションの詳細
ライフスタイルの違いによるセグメンテーションも効果的です。例えば、アクティブなライフスタイルを持つ人々に対しては、汗に強い化粧品や、持ち運びに便利なサイズの商品が求められることが多いです。
一方で、ホームケアを重視する消費者には、高機能でリラックス効果のある製品が人気です。
ターゲティング
ターゲティングは、セグメンテーションで分けたグループの中から、どのグループをターゲットとするかを選定するプロセスです。
企業は、ターゲットとなるグループに対して最も適した製品やサービスを提供することで、市場での競争優位を築くことができます。
ターゲティングの具体例
例えば、先の化粧品市場の例では、30代以上の女性をターゲットにすることが考えられます。
このターゲットグループは、アンチエイジング効果のある製品を求める傾向があるため、そのニーズに合わせた製品を提供することが重要です。
ターゲット市場の選定基準
ターゲット市場を選定する際には、以下の基準を考慮します。
- 市場の規模と成長性:選定する市場が十分な規模を持ち、将来的に成長が見込まれるかどうか。
- 競争状況:競合他社の存在とその強み、弱みを評価し、自社がどの程度競争力を持てるか。
- 自社の強みとの一致:自社のリソースや能力が選定した市場で効果的に活用できるかどうか。
ターゲティング戦略の実行例
例えば、化粧品ブランドが30代以上の女性をターゲットにする際には、広告キャンペーンで「肌へのケア」を強調し、高級感のあるパッケージデザインを採用することが効果的です。
また、ターゲット層が利用するメディアや購買チャネルに焦点を当てたプロモーションも重要です。
ポジショニング
ポジショニングは、ターゲットとなる顧客グループに対して、自社の製品やサービスがどのように位置づけられるかを決定するプロセスです。
効果的なポジショニングを行うことで、顧客に対して明確な価値を伝えることができます。
ポジショニングの具体例
例えば、高級化粧品ブランドが「プレミアム品質」を訴求することで、ターゲットとなる30代以上の女性に対して、自社製品の高い価値をアピールすることができます。
このように、顧客のニーズに合わせたポジショニングを行うことで、ブランドの認知度と信頼度を向上させることができます。
差別化ポイントの明確化
ポジショニングにおいては、競合他社との差別化ポイントを明確にすることが重要です。
例えば、同じ市場で競合する他社が価格競争を重視する中で、自社は品質と成分の安全性を強調することで差別化を図ることができます。
顧客への価値提案
ポジショニングの一環として、顧客への価値提案(Value Proposition)を明確にすることも重要です。
例えば、「肌に優しい天然成分を使用した化粧品」といった具体的な価値提案を顧客に伝えることで、ブランドのユニークさをアピールできます。
STP分析のステップ
ここでは、STP分析を行う際の具体的なステップを紹介します。
まず、市場を細分化します。セグメンテーションの基準は、地理的、人口統計的、心理的、行動的な要素が含まれます。
企業は、自社の製品やサービスに最も関連性の高い基準を選定し、市場を分けます。
地理的セグメンテーションの詳細
地理的な要素を基に市場をセグメント化する場合、地域、気候、都市の規模などを基準にします。
例えば、寒冷地では保湿力の高い製品が求められ、暖かい地域では軽いつけ心地の製品が好まれる傾向があります。
人口統計的セグメンテーションの詳細
人口統計的な要素では、年齢、性別、所得、教育水準などを基に市場を分けます。
例えば、高所得者層向けには高価格帯のプレミアム製品を提供し、若年層向けには手頃な価格のエントリーモデルを展開することが効果的です。
次に、セグメント化された市場の中から、最も有望なターゲット市場を選定します。
このプロセスでは、市場の規模、成長性、競争状況、自社の強みと一致するかどうかを評価します。
成長性と競争状況の評価方法
ターゲット市場の成長性を評価する際には、過去のデータや市場予測レポートを参照します。競争状況については、競合他社のシェアや新規参入の難易度を分析します。
これにより、自社が市場でどの程度成功できるかを判断します。
ターゲット市場の優先順位付け
複数のターゲット市場が存在する場合、それぞれの市場の優先順位を付けることが重要です。
例えば、市場規模が大きいが競争が激しい市場と、市場規模は小さいが競争が少ない市場がある場合、どちらを優先するかを戦略的に判断します。
最後に、選定したターゲット市場に対して、どのように自社の製品やサービスを位置づけるかを決定します。
ここでは、競合他社との差別化ポイントを明確にし、顧客に伝えるメッセージを作成します。
ポジショニングマップの作成
ポジショニング戦略を策定する際には、ポジショニングマップを作成すると効果的です。
ポジショニングマップとは、縦軸と横軸に異なる評価基準を設定し、市場内の競合製品や自社製品の位置を視覚的に表現したものです。
ポジショニングメッセージの作成
ポジショニングメッセージを作成する際には、ターゲット市場に対してどのような価値を提供するかを明確に伝えることが重要です。
例えば、「最高品質の天然成分を使用したスキンケア製品」といった具体的なメッセージを用いることで、顧客に強い印象を与えます。
STP分析の活用例
ここでは、実際の企業がSTP分析をどのように活用しているかを紹介します。
事例1:ナイキ
スポーツ用品メーカーのナイキは、セグメンテーションとしてアスリートと一般消費者を分け、それぞれに適した製品ラインを展開しています。
ターゲティングとしては、若年層のアスリートを主な顧客層とし、ポジショニングでは「パフォーマンス向上」を訴求ポイントとしています。
ナイキのセグメンテーション戦略
ナイキは、スポーツの種類やアスリートのレベルに基づいて市場をセグメント化しています。
例えば、プロフェッショナルアスリート向けには高度な技術を搭載した製品を提供し、アマチュアアスリートやフィットネス愛好者向けには手頃な価格帯の商品を展開しています。
ナイキのターゲティング戦略
ナイキは、特に若年層のアスリートをターゲットとしています。
若年層はスポーツを通じて自己実現を図る傾向が強いため、そのニーズに応える製品やサービスを提供することで、ブランドロイヤルティを高めています。
ナイキのポジショニング戦略
ナイキは、「Just Do It」というスローガンを通じて、挑戦と成長をサポートするブランドとしてのポジショニングを確立しています。
このメッセージは、ターゲットとなる若年層のアスリートに強く共感され、ブランドの強力なアイデンティティを形成しています。
事例2:スターバックス
スターバックスは、セグメンテーションとして地理的な要素を重視し、地域ごとに異なるマーケティング戦略を展開しています。
ターゲティングでは、都市部のビジネスパーソンを主な顧客層とし、ポジショニングでは「リラックスできる場所」としてのブランドイメージを確立しています。
スターバックスのセグメンテーション戦略
スターバックスは、都市部、郊外、大学キャンパスなどの地理的な要素に基づいて市場をセグメント化しています。
地域ごとに異なる店舗デザインや商品ラインアップを展開し、地域特有のニーズに対応しています。
スターバックスのターゲティング戦略
スターバックスは、都市部では、ビジネスパーソンをターゲットとしています。
これにより、忙しい日常の中でのリフレッシュや、仕事の合間のリラックス空間としての役割を果たすことを目指しています。
スターバックスのポジショニング戦略
スターバックスは、「第三の場所(Third Place)」というコンセプトを通じて、自宅や職場に次ぐリラックスできる場所としてのポジショニングを確立しています。
このコンセプトは、ターゲットとなるビジネスパーソンにとって魅力的であり、ブランドの強力なアイデンティティを形成しています。
STP分析を行う際のポイントや注意点
STP分析を効果的に行うためのポイントや注意点を紹介します。
一貫性を保つ
セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの各ステップで一貫性を保つことが重要です。
市場分析から顧客へのメッセージまで、一貫した戦略を持つことで、顧客に対して明確な価値を伝えることができます。
一貫性を保つための方法
各ステップで得られた情報をもとに、次のステップを進める際には、常に全体の戦略と照らし合わせることが重要です。
例えば、ターゲティングの際には、セグメンテーションで分けた市場の特性を十分に理解し、それに基づいてターゲットを選定します。
データの活用
市場分析においては、信頼性の高いデータを活用することが重要です。市場調査や顧客アンケートなどを通じて、正確なデータを収集し、分析に役立てましょう。
データ収集の方法
データ収集の方法としては、オンライン調査、グループインタビュー、購買履歴の分析などが挙げられます。これらの方法を組み合わせることで、多角的な視点から市場を分析することができます。
競合分析
競合他社の動向を常に把握し、自社のポジショニング戦略に反映させることが重要です。競合他社との差別化ポイントを明確にすることで、競争優位を築くことができます。
競合分析の手法
競合分析の手法としては、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威の分析)や、競合他社の製品・サービスの比較、価格戦略の調査などがあります。これにより、競合他社の戦略や市場でのポジションを把握し、自社の戦略に役立てることができます。
競合との差別化戦略
競合他社との差別化を図るためには、自社のユニークな強みを強調することが重要です。例えば、製品の品質やサービスのカスタマイズ性、ブランドの歴史や信頼性など、他社にはない特徴を打ち出します。
まとめ
本記事では、STP分析の基本概念から具体的な方法、実際の活用例までを紹介しました。
STP分析を理解し、自身のマーケティング活動に応用することで、効果的な市場分析とターゲティングが可能になります。
本記事も参考に、自社のマーケティング戦略にSTP分析を活用してみてはいかがでしょうか。