ビジネスで人材育成と組織活性化は企業にとって課題の一つです。
その鍵を握るのが、適切な評価制度の導入です。
しかし、一口に評価制度といっても、相対評価と絶対評価の2種類があり、それぞれ異なる役割とメリット・デメリットがあります。
本記事では、相対評価と絶対評価の特徴から、それぞれの適用例や間違った評価方法が組織に与える影響を紹介します。
相対評価と絶対評価の違いと特徴
相対評価と絶対評価は、どちらも評価制度であり多くの企業で使用されています。しかし、具体的な違いを理解できている人も少ないのではないでしょうか?
ここでは、相対評価と絶対評価の違いや特徴をそれぞれ紹介します。
相対評価とは
相対評価とは、評価対象となる個人の能力や成果を、所属する集団内の他の個人と比較して評価する方法です。
具体的な評価方法としては、以下のようなものがあります。
単純な順位付け | 集団内のすべての個人の能力や成果を比較し、 1位から最下位まで順位を付けする |
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ランク付け | 集団内の個人の能力や成果をあらかじめ決められたランクに分類する |
正規分布 | 集団内の個人の能力や成果を正規分布に従って評価する |
相対評価は、教育機関や企業などさまざまな組織で広く用いられています。相対評価の主な特徴は、以下の通りです。
競争意識を高める | 他のメンバーと比較されることで、 モチベーション向上を図れる |
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基準の設定が比較的容易 | 個々の能力や成果を定量的に評価する必要がないため、 基準の設定が比較的容易である |
比較対象が限定される | 対象となる集団が限定されるため、 個人の成果を十分に評価できない場合がある |
結果に不満が生じやすい | 他のメンバーと比較されることで、 評価の結果に不満を感じる従業員が出てくる可能性がある |
相対評価は、以下のような場面で活用されています。
- 販売職
- スポーツチーム
- 教育機関
特徴を踏まえた上で、適切な場面での活用が重要です。
絶対評価とは
絶対評価とは、個人の能力や成果を、あらかじめ定められた基準に基づいて評価する方法です。具体的には、以下のようなものがあります。
目標達成度 | 個人の目標達成度を評価基準とし、 目標達成度に応じて評価ランクを決定する |
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スキル・経験 | 個人のスキルや経験を評価基準とし、 所定のスキル・経験を有しているかどうかで評価する |
コンピテンシー (高い成績につながる行動特性) | 個人のコンピテンシーを評価基準とし、 事前に定められたコンピテンシーモデルに基づいて評価する |
絶対評価は、個々の能力や成果を客観的かつ公平に評価したい場合に有効な方法です。
絶対評価の主な特徴
絶対評価には、以下のような主な特徴があります。
評価基準が明確 | あらかじめ定められた基準に基づいて評価するため、 評価基準が明確になり、評価者間のバラつきを抑える |
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客観的な評価 | 個人の能力や成果を客観的に評価するため、 評価結果の公平性が高くなる |
評価基準の設定が難しい | 個人の能力や成果を客観的に評価するためには、 明確な評価基準を設定する必要がある |
運用コストが高い | 評価基準の設定や運用にコストがかかる |
絶対評価は、以下のような場面で活用されています。
- 専門職
- 管理職
- 新人研修
近年では、成果主義の導入が進み、絶対評価を導入する企業が増加しています。
相対評価と絶対評価の違い
相対評価と絶対評価の主な違いは、以下のとおりです。
項目 | 相対評価 | 絶対評価 |
---|---|---|
評価基準 | 集団内での順位 | 事前に定められた目標や基準 |
評価方法 | 同僚との比較 ランキング形式 五段階評価 | チェックリスト 達成度指標 基準クリア |
評価対象 | 能力、成果、貢献度など | 知識、技能、行動など |
評価結果の活用 | 昇給・昇格 ボーナス査定 人事異動 | 能力開発 目標設定 フィードバック |
どちらの制度を採用するかは、企業の理念や目標、評価したい要素などを考慮して決定する必要があります。
相対評価と絶対評価のメリット・デメリット
相対評価と絶対評価のどちらも優れた評価制度です。ただし、それぞれにメリット・デメリットがあります。
適切な選択をするためにも、まずはそれぞれのメリットとデメリットを把握しておきましょう。
相対評価のメリット
相対評価は、従業員同士を比較して評価を行う制度で、以下のようなメリットが挙げられます。
評価者の負担が軽い
評価基準を明確に設定する必要がなく、評価にかかる時間を短縮できるため、評価者の負担を軽減できます。
競争意識を高める
従業員同士が競争し合うことによって、モチベーションを高められ、企業全体の業績向上にもつながります。
人件費の抑制
あらかじめ評価対象者を一定の割合で上位・中間・下位などに区分しておき、それぞれのグループに昇給率や賞与を設定すれば、人件費を抑制できます。
相対評価を導入する際には、メリットを理解した上で、状況や目的に合った運用方法の検討が重要です。
相対評価のデメリット
メリットもある一方、以下のようなデメリットもあります。
評価基準の曖昧さ
相対評価では、評価基準を明確に定めることが難しく、評価者によって評価基準が異なる場合があります。
そのため、不公平感が生じやすく、社員の不満につながる可能性があります。
チームワークの阻害
相対評価では、社員同士が競争相手となるため、チームワークが阻害される可能性があります。
社員のモチベーション低下
相対評価では、常に他の社員と競争しなければ高い評価を得られないため、社員間の協調性を阻害し、モチベーションを低下させる可能性があります。
導入する際には、評価基準を明確化し、評価者への研修を徹底するなどデメリットを軽減するための対策が重要です。
絶対評価のメリット
絶対評価は、他の従業員との比較ではなく、個人の目標達成度や貢献度を重視するため、以下のようなメリットがあります。
従業員の納得感とモチベーション向上
評価基準が明確なため、従業員は自分がどのような成果を上げれば良いのかを明確に理解できます。
また、目標を達成すれば必ず評価されるため、モチベーション向上につながります。
公平性と透明性の確保
評価基準が客観的な指標に基づいているため、評価者による恣意的な判断が入り込みにくく、公平性の高い評価制度と言えます。
また、評価基準を公開すると、評価プロセスが透明化され、従業員の理解と納得を得やすくなります。
能力開発の促進
絶対評価では、個々の能力や成果を個別に評価するため、強みや弱みを把握しやすくなります。
また、目標達成のために必要なスキルや知識を明確にでき、個人の成長と能力開発を促進できます。
絶対評価は、適切に運用すれば、従業員の能力や成果を最大限に引き出せる有効な評価制度です。
絶対評価のデメリット
多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
評価基準の設定が難しい
絶対評価では、従業員の能力や成果を個別に評価するため、客観的で公平性の高い評価基準の設定が重要です。
しかし、評価基準の設定は難しく、専門的な知識や経験が必要です。
人件費の高騰リスク
優秀な従業員が多く評価される場合、人件費が高騰するリスクがあります。
運用にかかるコストが高い
導入する際には、評価基準の設定、評価者への研修、評価結果の分析など、さまざまな作業が必要です。
専門的な知識や経験が必要となるため、人件費や外部コンサルタントの費用などのコストがかかる場合があります。
相対評価と絶対評価の適用例
相対評価と絶対評価のどちらか一方が、優れているわけではありません。それぞれに異なった特徴があり、適用する場面が違います。
ここでは、相対評価と絶対評価の具体的な適用例をみていきましょう。
相対評価の適用例
相対評価は、さまざまな分野で活用されています。具体的には、以下のような適用例が挙げられます。
教育機関 | 入試(定員に対して、受験者の得点に基づいて合格者を決める) 成績評価( テストの点数をクラス全体で比較し、相対的な位置付けを行う) |
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スポーツ | 競技大会(選手の成績を比較し、順位や優勝者を決める) ランキング( 選手の能力や実績を比較し、順位をつける) |
企業 | 営業成績評価(各営業担当の売上を比較し、評価を行う) 人事考課(従業員の貢献度や能力を比較し、昇進や昇給を決める) |
相対評価は、競争を促進し、目標達成をサポートする効果的な評価制度ですが、使い方を間違えると、望ましくない結果を招く可能性もあります。
絶対評価の適用例
絶対評価は、個人の能力や成果を客観的な基準で評価する制度です。そのため、以下のような、公平性や透明性が求められる場面で広く活用されています。
公務員 | 昇進・昇格試験(筆記試験や面接などの結果に基づいて、一定の基準を満たした者を昇進・昇格させる) 懲戒処分(服務規程に違反した場合、あらかじめ定められた懲戒基準に基づいて処分を行う) |
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資格試験 | 国家試験(一定の基準を満たした者のみが合格できる) 日商簿記検定(合格基準を満たした者に、簿記の知識・技能を証明する資格が付与される) |
芸術 | コンテスト(審査員による客観的な評価に基づいて、入賞者や優勝者を決定) |
絶対評価は、個人の能力や成果を客観的に評価し、公正な評価制度を実現するために有効な手段です。
評価方法選択時の考慮事項
評価制度を導入する際には、相対評価と絶対評価のどちらを選択するべきか、慎重に検討する必要があります。
具体的には、以下のような点に考慮しましょう。
評価の目的 | 個々の能力や成果を測定したいのか、 競争を促進して目標達成をサポートしたいのか、 評価の目的によって、適切な評価方法は異なる |
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評価対象となる集団 | 集団の規模、構成、モチベーションレベル、能力レベルなどを考慮する |
評価基準 | 客観的で明確な評価基準を設定する |
コスト | コストを考慮した上で、適切な評価方法を選択する |
評価制度は、組織にとって重要なツールです。適切な制度を導入すれば、組織の活性化、人材育成、業績向上を促進できます。
間違った評価方法が組織に与える影響
評価制度は、組織の成長と発展にとって重要な役割を果たします。
しかし、間違った評価方法を選択したり、運用したりすると、組織にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
従業員のモチベーション低下
努力や成果が評価されない、評価基準があいまい、評価結果が不公平であると感じた場合、従業員のモチベーションは低下します。
モチベーションが低下すると、仕事への意欲や積極性が失われ、生産性の低下や離職率の増加につながります。
従業員間の対立
評価結果が集団内の相対的な位置づけに大きく左右される場合、従業員間の競争が激化し、対立や不和が生じる可能性があります。
また、評価基準があいまいだったり、評価結果が不公平だと感じたりした場合、従業員間で不満や不信感が募り、組織の雰囲気が悪化します。
生産性の低下
従業員のモチベーションが低下したり、従業員間の対立が生じたりすると、組織全体の生産性が低下します。
生産性の低下は、業績悪化や経営危機につながる可能性があります。
間違った評価方法は、組織にさまざまな悪影響を与えます。
評価制度を導入する際には、従業員のモチベーション、エンゲージメント、生産性を向上させるような、適切な選択が重要です。
最適な評価制度を選ぶポイント
評価制度は、組織の成長と発展にとって重要な役割を果たします。しかし、どのような評価制度が最適なのかは、組織の特性や目的によって異なります。
以下では、最適な評価制度を選ぶポイントをいくつかご紹介します。
評価の目的を明確にする
評価制度を導入する前に、まず評価の目的を明確にする必要があります。
個々の能力や成果の正確な測定なのか、それとも公正な人事評価の実現なのか、評価の目的によって、適切な方法は異なります。
客観的で明確な評価基準を設定する
客観的で明確な評価基準の設定が重要です。
基準があいまいだと、評価結果にばらつきが生じたり、不公平な評価につながったりする可能性があります。
定期的に見直しを行う
制度は定期的に見直し、必要に応じて改定する必要があります。社会情勢や組織の変化に合わせて、適宜更新するよう見直しを行いましょう。
評価制度は、組織の成長と発展を左右する重要な要素です。時間をかけて慎重に検討し、組織に最適な制度を導入してください。
まとめ
評価制度は、組織の成長と発展にとって重要な役割を果たします。
適切な評価制度を導入すれば、従業員のモチベーション向上、エンゲージメント強化、生産性向上、人材育成、業績向上などのさまざまなメリットが期待できます。
適切な評価制度は、従業員のモチベーション向上、エンゲージメント強化、生産性向上に繋がり、組織全体の活性化に貢献します。
時間をかけて慎重に検討し、自社にとって最適な評価制度を構築しましょう。