収益性分析は、企業が生み出す利益がどれだけ効率的に生み出されているかを評価するための手法です。利益は企業の活動の成果を示す重要な指標であり、その効率性は企業の競争力や持続可能性に直結します。
本編では、収益性分析の指標となる5つを詳しく解説します。
その上で、「損益計算書」と「貸借対照表」を用いて具体的な計算方法をご紹介します。
「収益性分析」とは
「収益性分析」とは企業がどれくらい稼げているか、またどれくらい効率的に稼げているかどうかを分析することを指します。
収益性が高ければ高いほど、投資家からの信頼感が高まり、資金調達しやすくなります。
「収益性分析」の5つの指標
主な指標は以下となります。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高当期純利益率
- ROA(総資産利益率)とROE(株主資本利益率)
①売上高総利益率
売上高総利益率は、企業が売上高から直接費用(原材料費、製造費用など)を差し引いた後の残りの利益、すなわち総利益を売上高で割った割合を示す財務指標です。
例えば、りんごを100円で売って直接費用を引いた利益が50円だった時は、売上高総利益率は50%です。
この指標は、企業が商品やサービスを生産するためにどれだけの利益を上げているかを示し、その効率性を評価するのに役立ちます。
売上高総利益率は以下のように計算されます。
売上高総利益率=総利益/売上高×100
売上高総利益率に関しては、基本的に高い方が良いとされていますが、業種によって大きな差があります。
具体的には、製造業で15~60%、小売業で20~30%、いちばん低いといわれている商社では1.5~2.0%程度となっています。
そのため、数字だけを見て判断するのは難しいですが、一般的には20%以上が望ましいとされています。
②売上高営業利益率
売上高営業利益率は、企業が売上高から直接費用(原材料費、製造費用など)および間接費用(営業費用、一般管理費用など)を差し引いた後の残りの利益、すなわち営業利益を売上高で割った割合を示す財務指標です。
これも簡単な例でいくと、りんごを100円で売って間接費用まで引いた利益が30円だった時営業利益率は30%です。
この指標は、企業の営業活動によってどれだけの利益を上げているかを示し、営業活動の効率性を評価するのに役立ちます。
売上高営業利益率は以下のように計算されます。
売上高営業利益率=営業利益/売上高×100
売上高営業利益率に関しても、基本的に高い方が良いとされていますが、業種によって大きな差があります。
ただ一般的な指標でお伝えすると、0〜5%が標準、5〜10%が優良、10〜15%超優良とされていますので、会社の経営状態を判断する材料として頭に入れておくと良いでしょう。
③売上高経常利益率
売上高経常利益率は、企業が売上高から直接費用(原材料費、製造費用など)および間接費用(営業費用、一般管理費用など)を差し引いた後の利益、すなわち経常利益を売上高で割った割合を示す財務指標です。
この指標は、企業の営業活動や経営活動によって生み出された利益の効率性を評価するのに役立ちます。
売上高経常利益率は以下のように計算されます。
売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
売上高経常利益率は25%です。経常利益率が高いほど、企業の経営全体における収益性が高いことを示します。目安としては、20%以上を目指すことが望ましいです。
④売上高当期純利益率
売上高当期純利益率は、企業が売上高からすべての経費や費用を差し引いた後の純利益を売上高で割った割合を示す財務指標です。この指標は、企業の売上高からどれだけの利益が生み出されているかを示し、企業の収益性や利益の効率性を評価するのに役立ちます。
売上高当期純利益率は以下のように計算されます。
売上高当期純利益率=当期純利益/売上高×100
ここで、「当期純利益」は企業が特定の会計期間(通常は1年間)に得た純利益を指します。「売上高」は企業が得た総売上高を示します。売上高当期純利益率が高いほど、企業は売上高から生じる費用や経費を効率的に管理し、収益性を高めていることを示します。
売上高当期純利益率は25%です。当期純利益率が高いほど、企業が持続的な利益を確保していることを示します。目安としては、20%以上を目指すことが良いでしょう。
⑤ROA(総資産利益率)とROE(株主資本利益率)
ROAは、企業が所有する総資産と純利益を比較した割合を示す指標です。つまり、どれだけの総資産を持っていて、利益を生み出しているかが分かる数字です。
ROAが高いほど、企業が効率的に収益を出していることを示します。
ROAは、以下の式で計算されます。
ROA=純利益/総資産×100
ここで、「純利益」は企業が特定の期間内に得た純利益を指し、「総資産」は企業が所有する全ての資産の総額を指します。一般的には、ROAが5%以上であれば、企業は効率的な資産運用を行っていると見なすことができます。
ROEは、企業の株主資本(自己資本)から得られる利益の割合を示す指標です。つまり、どれだけの資本を持っていて、利益を生み出しているかが分かる数字です。
ROEが高いほど、企業は株主に対して高いリターンを提供していることを示します。
ROEは以下の式で計算されます。
ROE= 純利益/自己資本 ×100
「純利益」は企業が特定の期間内に得た純利益を指しており、「自己資本」は企業の株主資本(自己資本)の額を指します。一般的には、ROEが20%以上であれば、企業は投資家にとって魅力的な利益を上げていると見なすことができます。
これらの指標を参考にしながら、企業は自社の経営戦略や財務管理を見直し、収益性を向上させるための取り組みを行っていくことが重要です。
収益性分析から見る「損益計算書」
「損益計算書」は、企業の収益性を把握するための基本的な財務諸表です。この書類を見ることで、具体的にどれだけ会社が儲けているのかが判断できます。
「損益計算書」をもとにここまで紹介してきた収益性分析の指標を具体的な数字を用いて算出してみましょう。
項目 | 金額(万円) |
---|---|
売上高 | 1,000 |
売上原価 | 800 |
売上純利益 | 200 |
販売費及び一般管理費 | 100 |
営業利益 | 100 |
営業外収益 | 20 |
営業外費用 | 10 |
税引前当期純利益 | 88 |
当期純利益 | 88 |
売上高
1か月で1,000台のパソコンを販売し、1台あたりの売価が10万円とします。
売上高 = 1,000 台 × 10 万円/台 = 1,000 万円
売上原価
パソコンの仕入れ原価や販売にかかるコストを考慮し、売上原価を算出します。
例えば、1台あたりの仕入れ原価が8万円とします。
売上原価 = 1,000 台 × 8 万円/台 = 800 万円
売上総利益
売上高から売上原価を差し引いた金額が売上総利益です。
売上総利益 = 売上高 – 売上原価 = 1,000 万円 – 800 万円 = 200 万円
販管費及び一般管理費
パソコン販売にかかる販売費や一般管理費を計上します。例えば、広告宣伝費や店舗運営費用などが含まれます。1か月の販売費及び一般管理費が100万円とします。
営業利益
売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額が営業利益です。
営業利益 = 売上総利益 – 販売費及び一般管理費 = 200 万円 – 100 万円 = 100 万円
経常利益
営業利益に営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いた金額が経常利益です。
例えば、1か月の営業外収益が20万円、営業外費用が10万円とします。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用 = 100 万円 + 20 万円 – 10 万円 = 110 万円
税引前当期純利益
経常利益から税金を差し引いた金額が税引前当期純利益です。
例えば、法人税が20%とします。
税引前当期純利益 = 経常利益 × (1 – 法人税率) = 110 万円 × (1 – 20%) = 88 万円
当期純利益
税引前当期純利益から特別損益を差し引いた金額が当期純利益です。
特別損益がない場合は税引前当期純利益と同じです。
当期純利益= 税引前当期純利益 – 特別損益= 88 万円 – 0円 = 88 万円
①売上高総利益率=総利益/売上高×100
= 200万円/1,000 万円×100=20%
②売上高営業利益率=営業利益/売上高×100
= 100万円/1,000 万円×100=10%
③売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
= 110万円/1,000 万円×100=11%
④売上高当期純利益率=当期純利益/売上高×100
= 88万円/1,000 万円×100=8.8%
収益性分析から見る「貸借対照表」
貸借対照表は、企業の資産、負債、および純資産の状況を示す財務諸表です。
資産: 企業が所有する資産や権利を示します。
負債: 企業が負っている債務や支払い義務を示します。
純資産: 資産から負債を差し引いたもので、企業の純資産を示します。
上記の「損益計算書」も大切な財務諸表ですが、「貸借対照表」は、会社の健康診断表とも言われるほど会社分析では非常に重要視される書類となるので、どういう作りになっているかここで把握しておきましょう。
その上で、ご紹介した収益性分析の指標を具体的な数字を用いて算出してみましょう。
資産 | 金額(万円) | 負債 | 金額 |
---|---|---|---|
流動資産 | 950 | 流動負債 | 750 |
現金及び預金 | 200 | 仕入債務 | 200 |
売掛金 | 150 | 支払手形 | 500 |
在庫 | 500 | その他流動負債 | 50 |
その他の流動負債 | 100 | 固定負債 | 200 |
固定資産 | 900 | 長期借入金 | 200 |
有形固定資産 | 600 | 純資産 | 900 |
無形固定資産 | 200 | 資本 | 600 |
投資その他の資産 | 100 | 利益剰余金 | 300 |
合計 | 1,850 | 合計 | 1,850 |
総資産
資産の全てを指すため今回の例では、1,850万円です。
流動資産
パソコン販売会社の現金、預金、売掛金、在庫など、1年以内に現金化できる資産を示します。この例では、合計950万円です。
固定資産
会社の使用や運営に長期間利用される資産を示します。有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産を含みます。この例では合計900万円です。
流動負債
1年以内に支払わなければならない負債を示します。仕入債務、支払手形、その他流動負債を含みます。この例では合計750万円です。
固定負債
1年以上の期間にわたって支払わなければならない負債を示します。この例では固定負債がなく、全ての負債が流動負債に分類されます。この例では合計200万円です。
純資産
資本や利益剰余金など、企業の資産を資金調達した後に残る部分を示します。この例では合計900万円です。
この貸借対照表を通じて、パソコン販売会社の資産と負債、純資産の状況を把握し、会社の財務健全性や収益性を評価することができます。
上記の「損益計算書」と「貸借対照表」をベースにここまで紹介してきた収益性分析のROAとROEを実際に算出してみましょう。
⑤ROA(総資産利益率)とROE(株主資本利益率)
ROA=純利益/総資産×100
=88万円/1,850万円×100=4.75%
ROE= 純利益/自己資本 ×100
=88万円/600万円×100=14%
まとめ
今回は、収益性分析の指標となる5つを解説した上で、「損益計算書」と「貸借対照表」を用いて具体的な計算方法をご紹介しました。
会社の事業を継続的に行っていく上で、会社がどれだけ儲けることができているのかを理解することは、今後の経営に大きく関わります。
初めて聞いた用語などがあって理解が難しい部分があるかもしれませんが、1つずつの指標がどういうものかを理解して、会社のボトルネックとなる部分を見極められるようにしましょう。
今後は、会計データを基に自社の状態を客観的な目線で考えることを意識しましょう。