中小企業のメーカーで、私は商品開発を担当しています。
ある日、上司から「次の新商品のアイデアを出してほしい」と言われました。「また、いつものアイデア出しか」と思い、ゆううつな気持ちになっています。
上司は、私のアイデアにケチをつけるだけです。「人のアイデアにケチをつけるのであれば、お手本になるようなアイデアを出してください」と、私は何度も心の中で叫んでいました。実際は言えるはずもなく、言葉をグッと飲み込んで「わかりました」と答えるだけです。
ともかく、商品開発が私の仕事なのでアイデアを出す必要があります。ただ、今までの方法には限界を感じています。どうすれば上司を納得させるアイデアが作れるのか。
さて、この記事を書いた奥村と申します。あなたが置かれている状況と不安な気持ち、よくわかります。
あなたが感じている不安を少しでも解消するため、役に立つ情報や知識をわかりやすく提供させてください。そして、提示している商品開発のプロセスや枠組みを活用することで、成功するアイデアが作れるでしょう。
この記事は、ジェームズ・W・ヤング著「アイデアのつくり方」という書籍を参考にしつつ、私が実際にセミナーで話した内容をベースに作成しています。商品(サービス)開発のアイデア出しに困っている方は、まずはこの記事を最後まで読んでいただければと思います。
商品開発プロセスの考察
最初に「商品開発」の範囲を決めておきます。
あなたの会社で具体的な商品を作って販売しているのであれば問題ありません。ただ、サービスを提供している会社の場合、商品開発は該当しないと思われる方もいるかもしれせん。
この記事では、形のある商品だけでなく、形のないサービスについても「商品開発」の中に含めることにします。これ以降は、そのような認識で読み進めてください。
では、商品開発のプロセスについて考察していきます。
「新版マーケティング原理」という書籍の中で、商品開発プロセスは「新製品開発プロセス」として、以下のように提示されています。このプロセスを活用して、商品開発のプロセスを解説します。
アイデアの創出
ここでは、商品・サービスのコアになるアイデアを創出していきます。
中小企業では、社長が思い付いた1つのアイデアで商品開発を行って失敗するケースがあります。この段階では、なるべく多くのアイデアを出すことが重要になります。
アイデア・スクリーニング
たくさんのアイデアの中から少数に絞り込みます。あらかじめ設定している商品開発の目標が、絞り込む際の基準になります。
コンセプト開発とテスト
アイデア・スクリーニングを通過した1つのアイデアについて、商品・サービスのコンセプトを設定します。
ここでは商品・サービスの属性(品質、ブランド、スタイル、パッケージなど)や商品・サービスの価値(消費者が商品に対して抱くイメージや満足感など)、さらにざっくりとした顧客ターゲットも明らかにしていきます。
コンセプトは顧客ターゲットと思われる消費者に提示し、その反応がテストされます。
マーケティング戦略の開発
コンセプト開発とテストが終了すると、商品・サービスを市場に導入するために、「マーケティング戦略の開発」が行われます。
経済性分析
ここでは想定される商品・サービスの市場規模、市場構造、競争などについて分析し、売上、コスト、利益などの予測が行われます。
予測データに基づき、商品・サービスの収益性が目標を達成できるかどうかを検討します。
製品化
経済性分析を通過したコンセプトに基づき商品・サービスの試作品が作られ、性能・品質テストなどが行われます。
商品を作る中小企業であれば、試作品を社員に配布して使用してもらい、感想を集めることでテストの代用にしているケースがあります。
テスト・マーケティング
この段階では限られた地域(市場)で、実際に販売して消費者や供給業者の反応が分析されます。ただ、このようなテスト・マーケティングは全国展開している大手メーカーでないと実施が困難です。
中小企業が開発した商品・サービスをテスト・マーケティングするのであれば、クラウドファンディングを活用することも一法です。クラウドファンディングでは支持(寄付)が集まらない商品・サービスであれば、実際に販売した時にも売れないからです。
市場導入
最後の「市場導入」のステップでは、「テスト・マーケティング」の結果をもとにして、商品・サービスを市場に導入するかどうかを決定します。
上記の8ステップを順番にできるのは、人も資金も潤沢な大企業だけではないかと考えられます。中小企業の場合、短縮化や簡易化、同時並行化して対応しているはずです。例えば「コンセプト開発とテスト」「マーケティング戦略の開発」「経済性分析」は同時並行して、時間とコストを掛けないようにしているはずです。
次節では8ステップの第一歩である「アイデアの創出」にフォーカスします。大企業でも中小企業でも、形のある商品でも形のないサービスでも、どのようなアイデアを作るかが商品開発のキーポイントになるからです。
アイデアを考えるための視点
では、アイデアを考えるための視点について解説します。以下の視点を使って、アイデアを作ってください。「こんなアイデアはダメだ」というような判断は厳禁です。
この段階ではアイデアをたくさん出すことが重要だからです。アイデアを出し切った後に、取捨選択すればいいのです。できれば「アイデア出しの専用ノート」を作り、実際に書くことをお薦めします。
不便
日常生活の中で感じている不便について、自分なりの解決方法をイメージします。
感動
日常生活や余暇で感じたうれしかったことや楽しかったこと。
趣味
自分の好きなことや没頭できること。なぜ好きになったのか、その理由も書いてください。
経験
個人や法人が保有する知識・経験・ノウハウ。こうした内容を集約化し、体系化します。
専門
上記の「経験」の中で、特に専門性が高い内容。特許・実用新案などを取得していない内容であれば、その内容を掘り下げてください。
資産
個人や会社が保有する有形・無形の資産。会社の場合、土地・建物などが有形資産で、特許・ブランドなどが無形資産です。
導入
異業種で標準になっている方法やノウハウを自社に導入。例えば、ハンバーガー店のドライブスルーを質屋が導入して、顧客の羞恥心に配慮し、利便性の高い店舗にするなど。
復活
ライフサイクルが終了した商品・サービスのコンセプトをリニューアルして復活。
変換
既存の商品・サービスを本来の用途とは違う用途に変換。例えば、極細繊維のメガネ拭きの素材を使って、洗顔クロスやボディクロスを作るなど。
移転
国・地域・業界の壁をこえて、商品・サービスを移転。例えば、日本のお好み焼きをアメリカ市場で展開するなど。
上記の視点を参考にすることによってアイデアが浮かんでくると思います。視点が複数になる場合もありますが特に問題はありません。
実現可能性を考える必要もなく、ある意味、妄想レベルでも構いません。「こんなことは誰も考えつかないだろう」というアイデアをたくさん出してください。
アイデアの具体化プロセス
たくさんのアイデアを作った後、商品開発の目標に沿って少数に絞り込みます。商品開発にかかわるメンバーが集まってミーティングを行い、最終的に1つのアイデアを決定します。決定したアイデアは以下のプロセスで具体化していきます。
情報・データ・資料の収集
ネット検索、書籍、紙資料、人から聞いた情報、自分の目で確認した情報など、アイデアに関連する情報を集めます。ネット検索では、国内情報よりも海外情報のほうが先行しているケースがあります。
咀嚼(そしゃく)
人が食べたものを胃の中で咀嚼するように、アイデアに関連する情報も頭の中に入れて咀嚼していきます。
頭の中で行いますので、やり方は人それぞれですが、浮かんできたキーワード、文章、商品のイメージを専用ノートに書いておいてください。
組合せ
この段階ではアイデアに関する情報や内容から一旦はなれます。例えが適切ではないかもしれませんが、カレーを作って1日寝かせると美味しくなることを聞いたり体感したりしていると思います。
アイデアにつきましても「寝かせる効果」が期待できますし、熱を帯びていたアイデア関連のキーワードや文章を冷めた視点で観ることができるからです。
ひらめき
アイデアに関連するひらめきが、仕事とは関係ないときに降りてきます。
通勤電車の車窓を観ているとき、お昼ごはんのとき、トイレにいるとき、お風呂に入っているときなど。つまり、リラックスしている瞬間に突然やってきますので、内容をノートに書き留める時間がありません。その場合はスマホの録音アプリを使い、ひらめきの内容を録音してください。
具体化
最後の段階は、アイデアを現実の商品・サービスにするために具体化していきます。専用ノートには、ここまでの段階で情報が集まっていますし、ひらめきによって商品・サービスの形が出来つつあるかもしれません。
ここで試作品に近いものが出来ているのであれば、関係者に意見やアドバイスを求めて、完成度を高めても良いでしょう。
まとめ
では、ここまでの内容をまとめておきます。商品開発のプロセスを通じて、成功する流れをつかみ、売れる商品を作ってください。
商品開発プロセスの考察
次のようなプロセスを経てアイデアを商品化して市場に導入します。
①アイデアの創出、②アイデア・スクリーニング、③コンセプト開発とテスト、④マーケティング戦略の開発、⑤経済性分析、⑥製品化、⑦テスト・マーケティング、⑧市場導入。
このプロセスは人も資金も潤沢な大企業をモデルとしており、中小企業では短縮化、簡易化、同時並行化して対応していると考えられます。
アイデアを考えるための視点
アイデアの創出を行うために、ここではアイデアを考えるための視点を10個提示して解説しています。
①不便、②感動、③趣味、④経験、⑤専門、⑥資産、⑦導入、⑧復活、⑨変換、⑩移転。
これらの視点が複数になっても問題はありません。アイデアをたくさん出すことがキーポイントになります。
アイデアの具体化プロセス
たくさんのアイデアを出した後、商品開発の目標に沿って少数に絞り込み、最終的には1つのアイデアを決定します。決定したアイデアは次のようなプロセスによって具体化します。
①情報・データ・資料の収集、②咀嚼(そしゃく)、③組合せ、④ひらめき、⑤具体化。
この記事が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。