価格弾力性は、企業が市場での競争力を維持し、持続的な成長を遂げるために欠かせない知識です。
価格設定を誤ると、売上や利益に大きな影響を与える可能性があります。
そのため、企業は価格弾力性を理解し、適切な価格戦略を策定する必要があります。この記事では価格弾力性について中小企業診断士の視点から解説します。
価格弾力性の定義とその重要性
価格弾力性とは、価格が変動した際に需要や供給がどの程度変化するかを示す指標のことです。
経済学やマーケティングの分野では非常に重要な概念であり、企業の価格戦略に大きな影響を及ぼします。たとえば、価格が上昇した場合に需要がどのくらい減少するかを把握することで、企業は適切な価格設定を行うことができます。
逆に、価格が下がった場合に需要がどのくらい増加するかを予測することで、販売戦略を最適化できます。
価格弾力性の種類
価格弾力性にはいくつかの種類があります。それぞれの種類について以下に説明します。
需要の価格弾力性
需要の価格弾力性は、価格の変動が需要にどの程度影響を与えるかを測る指標です。価格が上がると需要が減少し、価格が下がると需要が増加する関係性を示しています。
需要の価格弾力性が高い商品は、価格変動に対して敏感に反応します。たとえば、娯楽や贅沢品は需要の価格弾力性が高い商品に分類されます。
供給の価格弾力性
供給の価格弾力性は、価格の変動が供給にどの程度影響を与えるかを測る指標です。価格が上がると供給が増加し、価格が下がると供給が減少する関係性を示しています。
供給の価格弾力性が高い商品は、価格変動に対して供給量が大きく変動します。たとえば、農作物や生産コストが低い商品は供給の価格弾力性が高い傾向にあります。
交差価格弾力性
交差価格弾力性は、ある商品の価格変動が別の商品の需要にどれだけ影響を与えるかを示す指標です。この指標は、2つの商品が代替財か補完財を判断する指標となります。
代替財とは、ある商品の価格上昇により、別の商品の需要が増加するような関係です。例えば、バターとマーガリンの関係などがいえるでしょう。バターの価格が上がったので、代わりにマーガリンを使用するイメージです。
補完財とは、ある商品の値上がりが、ある商品の需要を減少させるような関係です。例えば、プリンターとプリンターインクの関係などがいえるでしょう。プリンター価格が上昇することで、プリンターを持っている人が減り、プリンターインクの需要が減少するようなイメージです。
価格弾力性の計算方法と公式
価格弾力性の計算方法には、需要の価格弾力性と供給の価格弾力性の2種類があります。それぞれの計算方法を紹介します。
需要の価格弾力性
需要の価格弾力性は、価格が1%変動したときに需要が何%変動するかを示す指標です。
需要の価格弾力性は1.0が基準であり、1.0より大きい場合は、需要の価格弾力性が大きく、価格の変化が需要に大きな影響を与えるといえます。逆に1.0より小さい場合は需要の価格弾力性が小さく、価格の変化が需要に与える影響が小さいと判断することができます。計算式は以下の通りです。
需要の価格弾力性=需要量の変化率/価格の変化率
例えば、ある商品の価格が10%上昇したときに需要が20%減少した場合を考えてみましょう。需要の価格弾力性の計算は基本的に絶対値で判断します。
需要の価格弾力性=需要量20%減/価格10%増加=2.0
需要の価格弾力性は2.0となり、1.0より大きくなり、需要が価格に対して非常に敏感であることを示しています。
供給の価格弾力性
供給の価格弾力性は、価格が1%変動したときに供給が何%変動するかを示す指標です。
供給の価格弾力性は1.0が基準であり、1.0より大きい場合は、供給の価格弾力性が大きく、価格の変化が供給に大きな影響を与えるといえます。逆に1.0より小さい場合は供給の価格弾力性が小さく、価格の変化が供給に与える影響が小さいと判断することができます。計算式は以下の通りです。
供給の価格弾力性=供給量の変化率/価格の変化率
例えば、ある商品の価格が10%上昇したときに供給が5%増加した場合を考えます。供給の価格弾力性の計算は基本的に絶対値で判断します。
供給の価格弾力性=供給量5%増/価格10%減
供給の価格弾力性は0.5となり、1.0より小さく、価格が供給に与える影響が小さいことを示しています。
交差価格弾力性
交差価格弾力性は、ある商品の価格変動が別の商品の需要にどれだけ影響を与えるかを示す指標です。価格弾力性は0を基準に考え、値が0より大きい場合は、代替品の関係となり、0より小さい場合は補完品の関係となります。
計算式は以下の通りです。
交差価格弾力性=商品Yの販売量の変化率÷商品Xの価格の変化率
例えば、プリンター価格が10%上昇したときにプリンターインクの販売量が5%減少した場合を考えます。需要・供給の価格弾力性は絶対値で考えますが、交差価格弾力性は、プラスの値か、マイナスの値かが重要となる点がポイントです。
交差の価格弾力性=プリンターインクの販売量5%減÷プリンター価格10%=-0.5
交差価格弾力性は-0.5となります。これは、プリンターとプリンターインクが補完品であることを示しています。
価格弾力性の影響要因
価格弾力性は様々な要因によって影響を受けます。以下はその代表的な要因です。
- 商品の特性
- 消費者の所得
- 代替品の有無
商品の特性
商品の代替品の有無や独自性が価格弾力性に大きな影響を与えます。代替品が豊富な商品は、価格弾力性が高くなります。
一方で、独自性が高く代替品が少ない商品は、価格弾力性が低くなります。たとえば、高級ブランド品や特許で保護された製品などが該当します。
消費者の所得
消費者の所得水準も価格弾力性に影響を与えます。高所得層と低所得層では、同じ価格変動に対する反応が異なることがあります。
高所得層は価格変動に対して比較的鈍感であるのに対し、低所得層は価格変動に対して敏感に反応します。
代替品の有無
代替品がある場合、その商品の価格弾力性は高くなる傾向があります。消費者が簡単に代替品に切り替えられる場合、価格の変動に対する需要の変化が大きくなります。
たとえば、牛肉の価格が上昇した場合、消費者は鶏肉や豚肉に切り替えることができます。
価格弾力性の高い商品と低い商品の具体例
価格弾力性の高い商品と低い商品の具体例を紹介します。
価格弾力性の高い商品
価格弾力性の高い商品は、価格が変動すると需要が大きく変化します。
たとえば、ファッションブランドの衣類や高級時計、贅沢品などは価格弾力性が高い商品に分類されます。これらの商品は、価格が上がると需要が大きく減少し、価格が下がると需要が増加します。消費者は価格に敏感に反応し、購入を控えたり、逆に購入を増やす傾向があります。
価格弾力性の低い商品
価格弾力性の低い商品は、価格が変動しても需要があまり変わりません。
たとえば、日常必需品である食品やガソリン、医薬品などは価格弾力性が低い商品に分類されます。これらの商品は、価格が上がっても消費者は購入を続けざるを得ないため、需要の変動が小さいためです。消費者は価格を意識しつつも、生活に必要な商品として購入し続けます。
価格弾力性を利用した価格設定の具体的な方法とその効果
価格弾力性を利用した価格設定の方法と、その効果の具体例を紹介します。
価格弾力性を利用した価格設定の方法
企業は価格弾力性を理解することで、以下のような価格設定戦略を立案できます。
価格を下げることで需要を大きく増加させる戦略です。セールやプロモーションを通じて消費者の購買意欲を引き出します。
例えば、ファッションブランドが季節ごとのセールを行うことで、在庫一掃と同時に売上を増加させることができます。
価格を引き上げることで利益を最大化する戦略です。
医薬品や必需品などに適用されます。例えば、ガソリン価格が上昇しても需要の変動は小さいため、価格を引き上げることで収益を増加させることができます。
価格設定の効果
適切な価格設定は、企業の売上と利益に直接的な影響を与えます。
弾力性の高い商品の価格を調整することで、市場シェアの拡大や競争優位性の向上が期待できます。価格弾力性を活用した価格設定は、企業の収益性を高めるための重要な手段となります。
実際の企業事例を通した価格弾力性の活用例
価格弾力性を活用した戦略の具体例を紹介します。
航空会社
需要の変動に応じて価格を柔軟に設定し、収益を最大化しています。ピークシーズンには価格を上げ、オフシーズンには価格を下げる戦略を取ります。
例えば、夏休みや年末年始の旅行シーズンには航空券の価格が上昇し、平日や閑散期には価格が下がります。このように、需要の変動に合わせた価格設定が収益最大化に貢献しています。
ファッションブランド
セール期間中に価格を大幅に下げることで、在庫を一掃しつつ売上を増加させています。
例えば、季節ごとのセールや年末セールなどの期間中に、通常よりも大幅な割引を行うことで、消費者の購買意欲を引き出し、短期間で売上を大きく伸ばすことができます。
価格弾力性のグラフの見方と分析方法
価格弾力性を視覚的に理解するためには、価格と需要量の関係を示すグラフが有効です。需要曲線や供給曲線を用いることで、価格弾力性の傾向を把握できます。
たとえば、需要曲線は通常、右下がりの曲線として描かれ、価格が下がると需要が増加する様子を示しています。一方、供給曲線は右上がりの曲線として描かれ、価格が上がると供給が増加する様子を示しています。
グラフの分析方法
価格弾力性グラフは、価格の変化が需要に与える影響を視覚的に捉えるためのツールです。グラフの傾きから、価格弾力性の大きさを判断できます。
傾きが急なほど弾力性が高く、価格の変化に需要・供給が敏感に反応することを示します。
グラフの交点は、均衡価格といわれ、需要と供給が一致する価格を示しており、商品を購入する消費者と商品を供給する生産者のバランスが取れた状態をいいます。
この均衡価格より価格が高い場合は、需要に比べ、供給が多く状態となります。そのため、商品の売れ行きが悪くなり、在庫過多になる傾向があり、価格を下げる戦略が検討されます。
均衡価格よりも価格が安い場合は、需要に比べ、供給が少ない状態となります。そのため、価格を上げても商品の売れ行きが下がらないことが予想されるため、値上げの余地があるといえます。
まとめ
価格弾力性の理解は、効果的な価格戦略を立案するための重要な要素です。価格設定は単なる数字の問題ではなく、市場動向や消費者行動を深く理解した上での戦略的な決定が求められます。
このような視点を持つことで、企業は競争の激しい市場で優位に立つことができるでしょう。価格弾力性の基本的な概念や計算方法、具体的な活用例を参考に企業の売上と利益増加の戦略の参考にしてみてはいかがでしょうか。