【中小企業診断士が解説】ものづくり補助金の概要〜申請条件と採択率をあげる方法〜

ものづくり補助金は、中小企業等が革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する経済産業省の補助金制度です。補助金額も大きく、採択されることで経営の大きな助けとなります。

この記事では、ものづくり補助金の基本的な申請の流れと、中小企業診断士の視点から採択率をあげるポイントを解説します。

目次

ものづくり補助金とは?

ものづくり補助金と聞くと、製造業等の「ものづくり」のみに利用できると勘違いをされがちですが、正式名称が「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」であり、商業やサービス業などにも広く利用する事が可能です。

中小企業・小規模事業者の革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの省力化に必要な設備投資・システム構築が補助対象となる補助金です。

どのような事業が対象となるか?

ものづくり補助金は大きく分けると「省力化(オーダーメイド)枠」、「製品・サービス高付加価値枠(通常型・成長分野進出型)」、「グローバル枠」の3種類に分かれており、それぞれ対象となる事業が異なります。

要綱から以下に対象事業を抜粋します。

スクロールできます
申請枠対象事業
省力化(オーダーメイド)枠人手不足の解消に向けて、デジタル技術等を活用した専用設備(オーダーメイド設備)の導入等により、革新 的な生産プロセス・サービス提供方法の効率化・高度化を図る取り組みに必要な設備・システム投資等を支援
製品・サービス高付加価値化枠通常類型革新的な製品・サービス開発の取組みに必要な設備・システム投資等を支援
成長分野進出型今後成長が見込まれる分野(DX・GX)に資する革新的な製品・サービス開発の取組みに必要な設備・システム投資等を支援
グローバル枠海外事業を実施し、国内の生産性を高める取組みに必要な設備・システム投資等を支援

参考:公募要領(18次締切分)概要版 

ものづくり補助金の概要

ここからは、ものづくり補助金の実際の補助額や申請条件など基本的概要についてご説明していきます。

ものづくり補助金の申請枠と補助率・補助金額上限

取組内容等により複数の枠が設けられており、補助上限や補助率が異なります。また、補助上限については、従業員数により幅があります。

スクロールできます
枠・類型補助上限補助率
省力化(オーダーメイド枠)750万円~8,000万円中小企業1/2小規模・再生2/3
製品・サービス高付加価値枠通常類型750万円~1,250万円中小企業1/2小規模・再生2/3新型コロナ回復加速化特例2/3
成長分野進出類型1,000万円~2,500万円2/3
グローバル枠3,000万円中小企業1/2小規模2/3
※2024年4月(直近締切公募回:第18次公募)時点情報

ものづくり補助金も枠や類型は公募回によって異なる場合があるため、申請の際には最新の情報をチェックしてください。

また、金額の規模が大きく要件に沿った計画書の作成が必要なため、要綱をよく読み、条件を確認し、条件に沿った取り組み内容を検討することが大切です。

参考:ものづくり補助事業公式ホームページ

ものづくり補助金の基本要件

ものづくり補助金は全ての申請枠に共通した基本要件が定められており、申請要件が未達の場合には補助金の返還の可能性もあるため十分に注意し、申請する必要があります。

基本要件は以下の通りです。

①~③の全て満たす3~5年の事業計画を作成していること

①事業者全体の付加価値額(営業利益、人件費、減価償却費の合計)を年率成長率3%以上増加
②給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
③事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする

申請から審査の流れと注意点

申請から審査の流れは以下の通りです。

  1. 事前準備
  2. 電子申請
  3. 審査
  4. 採択決定・交付申請
  5. 交付決定
  6. 事業実施
  7. 実績報告
  8. 補助金の請求
  9. 事業化状況報告

1.事前準備

事前準備の段階でやるべきことはざっくりと以下の項目になります。

公募要領確認
公募要領をよく確認し、自社の事業が申請条件を満たしていることを確認します。

GビズIDプライムの取得
電子申請用のGビズIDプライム(https://gbiz-id.go.jp/top/ )を取得します。GビズIDにはエントリーとプライムの2種類がありますが、申請にはプライムが必要なため、ID取得時には注意が必要です。また、IDの発行には場合によっては1週間以上かかることもあるため、早めの取得をおすすめします。

計画書の作成
補助金申請の計画書を作成します。計画書はA4サイズ10枚以内が目安となっています。計画書は、ものづくり補助金の審査項目に沿って作成することが採択のためには重要です。

必要書類の準備
必要書類を準備します。必要な書類については事業形態や申請枠、加点項目の活用等により異なるため、要綱を確認し事前に準備を進めておくことをおすすめします。

2. 電子申請

GビズIDプライムを使用し、電子申請を行います。電子申請システムは入力箇所も多く時間がかかります。

加えて、電子申請システムの申請締切時間は明確に定めれており、時間を過ぎると申請ができなくなってしまいます。そのため、締切ギリギリで申請の作業をしなくても良いように早めの申請作業がおすすめです。

3. 審査

申請締め切り後から審査が開始されます。審査は中小企業診断士等の外部有識者により行われ2~3カ月程度かかります。

審査結果発表の目安は公募要領等で記載されています。計画書に記載した事業は、原則、交付決定以降のみ認められており、交付決定前に着手してしまうと採択されたとしても補助対象外になってしまうため注意が必要です。

4. 採択決定・交付申請

採択・不採択の発表はGビズIDプライムアカウントに対応するメールアドレスに届きます。また、採択者については、ものづくり補助金のホームページ上に公表されます。

ものづくり補助金は採択の後に、交付申請の手続きがあり、交付申請の手続きが完了し、交付決定通知が届いた後から補助事業を開始できます。

採択されただけでは、補助事業は開始できず、交付決定前に補助事業に着手してしまった場合も、補助対象外になってしまうため注意しましょう。

5. 交付決定

交付申請では、補助対象経費として申請した設備等の見積もりなど各種書類を整え申請します。交付申請で提出した書類等の確認が完了すると交付決定となります。

書類の不備等があると交付決定までに時間がかかる場合もあるため、交付申請の際も必要書類や注意事項等をしっかりと確認し行う必要があります。

6. 事業実施

交付決定後から申請の際の計画書に基づいて補助事業を実施します。

補助事業の実施期間も定められています。実施期間を過ぎてしまうと対象外になってしまうため、事業実施期間をしっかりと確認し、事業を実施しましょう。

補助事業の完了は、対象経費の支払いが全て完了することが必要です。事業の実施期間は原則、交付決定から最大10ヶ月です。交付決定の時期のより事業者ごと異なるため注意が必要です。

7.実績報告

補助事業の終了後には期限内に実績報告の提出が必要です。実績報告の際には、見積書や支払いの証拠など、補助事業を実施した際の取引の様子がわかる証拠書類等の提出が必要となります。

証拠書類が不足していると、対象経費から外されてしまう可能性もあるため、事業の実施前に実績報告に必要な書類も確認しておきましょう。

8.補助金の請求

実績報告が認められると補助金の請求が可能となります。ものづくり補助金を含め多くの補助金制度は事業の完了後に補助金が振り込まれます。

そのため、補助事業は、立替払いで実施する必要があるため、補助事業を実施するための資金繰りは申請前から検討しておく必要があるでしょう。

9.事業化状況報告

ものづくり補助金は補助金の支払いがあって全てが終わりではありません。

3~5年の事業計画期間の状況報告等が必要となります。ここでは、ものづくり補助金の基本要件を満たしているかなどが確認されます。要件を満たしていない場合には返還要請などの可能性もあるため、申請時に3~5年で基本要件を満たせるかも検討する必要があります。

ものづくり補助金のスケジュール

ものづくり補助金は概ね似たようなスケジュールで実施されています。過去の例から申請から実績報告までのスケジュールを紹介します。

実際のスケジュールは公募回や事業者の交付申請や補助事業の実施期間により異なるため、あくまで参考としてください。

公募開始令和5年7月28日
応募締切令和5年11月7日公募開始から約3ヶ月
採択発表令和6年1月19日応募締切から約2ヶ月
交付申請令和6年2月頃(目安)採択発表から1ヶ月前後
実績報告事業者ごと異なる交付決定から最大10ヶ月
(参考)第16回スケジュール

ものづくり補助金の審査のポイント

ものづくり補助金の基本的な申請のポイントを公募要領から紹介します。以下の切り口で視点から審査が行われるため計画書は審査項目のヌケ・モレがないように作成をしましょう。

これ以外にも加点項目等もあるため、事前に公募要領をしっかりと確認しておきましょう。

<技術面>
①取組内容の革新性
②課題や目標の明確さ
③課題の解決方法の優位性
④技術的能力
⑤開発内容の妥当性
⑥労働生産性の向上

<事業化面>
①事業実施体制
②市場ニーズの有無
③事業化までのスケジュールの妥当性
④補助事業としての費用対効果

<政策面>
①地域経済への波及効果
②ニッチトップとなる潜在性
③事業連係性
④イノベーション性
⑤事業環境の変化に対応する投資内容

申請手続きの詳細

ものづくり補助金の申請手続きは、全てGビズIDプライムを活用した電子申請です。GビズIDプライムの取得には事業の形態によっては1週間程度かかるため早めの取得をおすすめします。

また、電子申請の入力箇所は多く、時間もかかるため電子申請の入力作業も余裕をもって進めておきましょう。

GビズIDプライムは以下のURLよりアカウント登録を進めてください。

GビズIDプライムアカウント取得

採択率をあげるための計画書作成のポイント

ものづくり補助金の採択のための計画書作成のポイントを紹介します。

計画書作成の際には、以下のポイントを参考にしてください。

1. 事業内容を明確に

  • 申請する事業の内容を簡潔かつ明確に記述しましょう。
  • 専門用語は極力避け、図表などを活用して説明を補足しましょう。
  • 事業の独創性や革新性をアピールし、審査員に「この事業にぜひ補助金を支援してほしい」と思わせるようにしましょう。

2. 具体的な数値目標を設定

  • 事業を実施することでどのような成果を期待するのか、具体的な数値目標を設定しましょう。
  • 目標達成に向けた具体的な施策も合わせて記述し、実現可能性をアピールしましょう。
  • 単に売上増加を目指すのではなく、市場シェア獲得や顧客満足度向上など、定量的な指標を用いて事業の成果を明確に示しましょう。

3. 採択後の事業計画を明確に

  • 採択された場合にどのように事業を進めていくのか、具体的な事業計画を記述しましょう。
  • スケジュールや人員配置、資金繰りなども計画に盛り込み、事業を円滑に進められる体制が整っていることをアピールしましょう。
  • 計画が不明確だと、事業の採算性や実現可能性が低く評価されてしまう可能性があります。

4. 過去の類似事例を参考に

  • 過去の成果事例などを参考に、審査員がどのような点に着目しているのかを理解しましょう。
  • 自社の事業と類似する事例があれば、その事例を参考に申請書を書き進めるのも効果的です。
  • 「ものづくり補助金」ホームページには、過去の成果事例が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。

参考:「ものづくり補助金総合サイト 成果事例のご紹介」

5. 専門家のアドバイスを活用

  • 必要に応じて、中小企業診断士などの専門家に相談し、申請書の作成をサポートしてもらうのも有効です。
  • 専門家は、補助金の制度や審査基準に精通しており、より効果的な申請書を作成するためのアドバイスをしてくれます。
  • 特に、初めて補助金を申請する場合は、専門家のサポートを活用することをおすすめします。

よくある質問

審査にはどれくらい時間がかかりますか?

審査期間は明確に公表されていませんが、過去の過去の事例から2ヶ月程度で採択発表をされる場合が多いです。ただし、ものづくり補助金の事業の着手は採択発表の後の交付申請手続きが完了してからとなるため注意が必要です。

採択率はどのくらいですか?

採択率は、公募回や申請枠により幅がありますが、30%~50%程度で推移しています。

基本要件の地域別最低賃金+30円は、どのような雇用形態でも満たす必要がありますか?

満たす必要があります。ただし、都道府県労働局長から減額特例を受けている場合は満たしている必要はありません。

まとめ

ものづくり補助金は中小企業等が革新的なサービスや試作品の開発、生産プロセスの改善を行うため広く活用が可能です。

しかしながら、計画書作成の難易度は高く、綿密な計画や具体的な数値目標を設定することが重要となります。

一方で、補助金額も大きく採択されれば、事業経営の大きな助けにもなります。本記事も参考に、ものづくり補助金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士として補助金に関する計画書の作成支援等を得意としている。また、ITコーディネータ、健康経営エキスパートアドバイザーなど様々な資格を有しており、様々な角度からのコンサルティングも実施している。IT分野では特にSNSコンサルティングが得意。カウンセラーとして側面もあり、カウンセリングの聴く技術も活かしてクライアントの望む姿を明確にし、具体的な行動に移せるコンサルティングを行っている。

目次