メンター制度は、新入社員や若手社員の離職率の低下や女性が活躍しやすい職場環境作りなどに役立つ制度として注目されています。
メンター制度導入に成功している企業がある一方で、メンター制度の意義が見いだせずに、廃止したり、導入を見送る企業もあります。
メンター制度導入の成功事例から成功の秘訣を探っていきましょう。
メンター制度とは
メンター制度は、人材育成や社内における人材の定着を図るための制度です。
社内の先輩社員であるメンターが新入社員などの後輩社員であるメンティに対して個別に支援活動を行います。
メンティのキャリア形成上における課題、職場内での悩みについて、メンターが解決をサポートする役割を担います。
新入社員などの後輩社員の育成手段は様々な方法がありますが、メンター制度の特徴は以下の通りです。
- メンターがメンティの直属の上司や同じ部署の先輩ではなく、他の部署の先輩であること。
- メンターは、業務よりも仕事全般や生活面、メンタル面のサポートをメインとしていること。
- メンターとメンティは、上下関係ではなく、双方向の対話を目指していること。
つまり、直属の上司や先輩には話しづらいことを他の部署の先輩に相談することで解決を図るための制度と言えます
メンター制度が注目されている理由
大きな理由は、社内の人間関係が希薄化していることが挙げられます。
現在では、テレワーク、リモートワークを導入する企業も増えており、仕事の効率化につながっている面がある一方で、社員同士のリアルな関係が築きにくくなっています。
そのため、従来の職場ならば、自然に発生していた先輩と後輩間の育成的な人間関係が育ちにくくなっています。
新入社員などが職場での悩み事について相談したくても職場内には相談する相手がおらず、家族や友人に相談している実態もあります。職場内で人間関係が築きにくくなると、早期の離職にもつながります。
実際に、厚生労働省が2023年(令和5年)10月に発表した新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)のデータを見ても、3年以内の離職率は次のようになっています。
中学 | 52.9% |
高校 | 37.0% |
短大等 | 42.6% |
大学 | 32.3% |
また、社員数が29人未満といった小規模の事業所よりも100人〜999人といった中・大規模な事業所の方が離職率が高い傾向があります。
人が多ければ、孤立化して疎外感を感じやすくなる人もおり、人間関係が築けずに離職してしまう人が多いと考えられます。
そこで、会社がメンター制度を設けることで、社内における人間関係の形成を目指す必要があるわけです。
引用:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します
メンター制度導入の効果とメリット
メンター制度を導入することは、メンティはもちろん、メンターや会社にとっても様々な効果やメリットがあります。
メンティへの効果とメリット
メンティにとっては、次の効果が期待できます。
- モチベーション向上につながる。
- 職場環境へ適応しやすくなる。
- 知識やスキル獲得につながる。
- 視野が拡大する。
- ニーズに沿ったキャリア開発につながる。
- 職場でのリーダーシップを発揮できるようになる。
メンターに相談することにより、不安や悩みを解消できますし、対話を通して、社内の風土を知ることができ、会社になじみやすくなります。会社への理解が深まるため、職場環境へ適応しやすくなり、会社で働くことへのモチベーション向上につながるわけです。
メンターへの効果とメリット
メンターにとっては、「人材育成意識が向上する」という効果が期待できます。
メンターは、上司と部下の関係ではなく、むしろ、対等に近い関係ですが、後輩にあたる社員の悩み事と向き合う中で、コミュニケーションスキルを向上させることができますし、先輩社員としての責任感を高めることができます。
マネージャーなどの部下を育成する立場になった際にその経験を生かすことができるので、メンターの能力向上にもつながります。
会社への効果とメリット
会社にとっては次のような効果が期待できます。
- メンティの定着率の向上
- 部門や職種をまたがるコミュニケーションの活性化
新入社員などメンティの立場にある社員の定着率が高まることが大きなメリットになります。
また、メンター制度では、メンティとは異なる部署の先輩がメンターになることが多いため、部署を超えた社内におけるコミュニケーションの活発化につながります。
こうしたことから、風通しの良い社内環境形成につながることが期待されています。
メンター制度導入の成功事例と学ぶべき教訓
メンター制度の導入に成功している企業の事例を参考に学ぶべき教訓を見ていきましょう。
キリン株式会社の事例
キリン株式会社は、女性総合職の継続就業と女性経営職のキャリア支援を目標に、メンター制度を導入しました。
メンティが次のメンターになる「メンタリングチェイン」の仕組みを構築し、メンタリング経験者を増やすことにより、社内における女性活躍の理解者と支援者を増やし、メンター同士でもメンティのキャリア支援について相談し合うなどメンタリングの輪を拡大しています。
その結果、女性社員の離職率の低下や女性社員の役員への積極的な登用などの成果につなげています。
この事例からわかることは、メンタリング経験者を増やすことにより、会社がメンター制度を導入した目的を達成しやすくなるということです。
そのためには、メンター制度導入の目的を明確化することが大切です。
株式会社オークローンマーケティングの事例
新入社員の職場への早期定着と順応などを目的にメンター制度を導入しました。
メンターは公募し、管理職の登竜門として位置づけて、社内でのキャリアアップの仕組みに組み込んでいる点が特徴です。
また、メンタリング実施後にノウハウを集積、継承するために、「メンタリング虎の巻」を作成しています。
メンターは、通常の業務と並行してメンタリングに取り組まなければならないため、負担になる点が課題です。また、メンタリングを行っても自分の実績として評価されないこともあります。
その点、この会社では、メンターを管理職の登竜門として組み込み、メンタリングのノウハウも継承することで、メンターの意義を高め、負担軽減を図っている成功例と言えます。
ネスレ日本株式会社の事例
女性社員の成長サポートを行うためにメンター制度を導入しました。メンターは経営トップが任命する形を取ることで、全社的な取り組みとして推進しています。
また、メンティ経験者の体験談を公開できる場を設けることで、メンター制度の意義を社内に浸透させています。
メンター制度は、業務の指導ではないだけに、導入の意義が理解されにくいことがあります。そこで、経営トップが自ら音頭を取る形で、全社的な取り組みとし、メンティ経験者の体験談を社内に伝えることでメンター制度の意義を社内に広く知らせている成功例と言えます。
事例引用元:メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル
メンター制度の導入や運用のポイント
メンター制度の導入に当たっては、導入計画を策定したうえで、メンター制度運用のための体制を構築する必要があります。
また、メンター制度運用の際にも事前の研修などで、メンター制度の意義や効果について周知徹底することが重要になります。
メンター制度を導入する目的を明確にする
まず、会社が抱えている課題を洗い出して、その課題解決のためにメンター制度の導入が最適であるという関係を見いだせなければ、全社的な取り組みとすることができません。
メンター制度を導入する目的の他、次のような項目を設定して全体の計画を策定します。
- メンター制度導入により目標とするゴール
- メンター制度の対象者の設定
- メンター制度の運用ルールと体制の策定
目標は、定量的な目標と定性的な目標を設定します。
定量的な目標としては新入社員の離職率の数値、定性的な目標としてはヒヤリングやアンケートによる社員の意識変化などが挙げられます。
メンター制度の推進体制の構築
メンター制度全体の計画が決まったら、次に、メンター制度推進体制の構築に取り掛かります。
人事に関する制度のため、人事部門が中心になって取り組むことが多いと思いますが、全社的な取り組みとすることが大切です。
社長などの経営トップから、メンター制度を導入することやその意義を発信してもらい、特に、メンティやメンターの直属の上司に理解してもらうことが大切です。
メンター制度は業務の指導を目的としているわけではないため、その意義が見いだしにくいことがあるため、メンターを管理職の登竜門として組み込むなど、制度利用のメリットを感じさせる仕組みを取り入れることも必要です。
メンター制度の実施の流れ
メンター制度を実施するにあたっては、次の4つのステップで進めていきます。
メンターとメンティの対象となる社員を選定します。
新入社員の離職率の低下が目的ならば、新入社員がメンティの対象となりますが、それ以外の目的であれば、中堅社員であってもメンティの対象となることもあります。
そして、マッチングが非常に重要です。まず、メンティ、メンターが同じ部署ではないことが前提になります。
- メンティのキャリア志向とメンターの経歴が合うかどうか。
- メンティの期待とメンターの特性が合うかどうか。
- メンティとメンターが対話しやすい関係かどうか。
こうしたことを考慮して、マッチングを行っていきます。
メンターとメンティの双方に対して、メンター制度の意味を理解してもらわなければなりません。
そのために事前研修により周知徹底するとともに、メンター制度の運用ルールなども理解してもらいます。
特に、自社や他社におけるメンター制度導入の好事例を紹介することにより、メンター制度を利用することの意味やメリットを理解してもらうことが大切です。
次のような項目が研修内容になります
- メンター制度導入の目的
- メンタリングとは何か、OJTやOff -JT、コーチングとの違い
- メンタリングの進め方や話し合う内容
- メンタリングの基本スキル
- メンタリングで問題が起きた場合の対処法
- メンタリングの好事例の紹介
実際に、メンターとメンティが対話を重ねて、メンタリングを進めていきます。メンタリングの進め方は、当事者の自由に委ねるのが原則ですが、話し合いの段階は次の3ステップで行われるのが一般的です。
- 初期段階
自己紹介を経てお互いを理解し、メンタリングの目標を設定する段階です。
- 深化段階
メンティとメンターの双方が実践内容を振り返り、今後の自律的な活動に活かす段階です。
- 解消段階
設定した目標を基に、メンティが相談し、メンターが助言やサポートを行う段階です。
メンタリングは、例えば、1年間というように時間を区切って行われるのが一般的です。
メンタリングの実施期間が終了したら、ヒアリングやアンケートにより、メンターとメンティの双方からフィードバックを得ます。
特に確認したいポイントは次の4点です。
- 総合的な満足度
- メンタリングの感想や自身の気づき
- 仕事に対する取り組みやキャリア開発への影響・効果
- メンター制度や推進部門に対する意見や改善点
人事部門などでこうしたデータを集計して分析し、自社におけるメンタリングの実施事例やノウハウとして蓄積するとともに、改善点を洗い出して、次期のメンタリング運用につなげます。
特に、メンターのためのノウハウ集や、メンター制度推進部署における運用マニュアルとして整備することは有効です。
メンター制度導入の失敗を避けるためのポイント
メンター制度は、いらない、意味がなく、役に立たない制度だと言われることがあります。メンター制度が負担になって却って若手社員の離職につながってしまう弊害も指摘されています。
その理由は、メンター制度が正しく運用されておらず、その意義が社内で共有されていないためです。
メンター制度導入の失敗を避けるためのポイントを見ていきましょう。
事前の説明、研修会の実施による理解の促進
メンター制度は、業務の指導ではないために、会社はもちろん、メンタリングの当事者にとっても効果や意味を見いだしにくいことがあります。
特に、メンティとメンターが意義を理解せずにメンタリングに取り組んでもただのお話し会で終わってしまい、実施の意味がなくなってしまいます。
そのため、事前研修でメンター制度の意味や好事例などを理解してもらうことが大切になります。
会社全体に対して制度の周知
メンター制度に関与する社員が一部の人に限られてしまうケースもあります。
直属の上司がメンター制度の意義を理解していないと、メンティとメンターの双方にとって、メンタリングが業務の妨げになり、無駄な時間になってしまいます。
そのため、メンター制度の意義や効果を全社員に理解してもらうことが大切です。経営陣からメンター制度について発信してもらうとともに、メンター制度導入後の定量的な成果やアンケート集計結果などを公開して、効果を実感してもらうことが大切です。
メンターとメンティのミスマッチを防ぐ
初回の顔合わせ後に、面談や対話が進まないこともあります。
メンティとメンターの双方または一方の業務が忙しい場合もありますが、このような場合は上司が配慮して、メンタリング時間を確保できるようにすることが大切です。
また、メンタリング時間があるのに対話が弾まない場合は、人事部などの推進部門が間に入ってフォローアップを行うべきです。
その意味で、メンターとメンティのマッチングの際に、様々な観点から対話が弾むかどうかを考慮することが大切と言えます。
まとめ
メンター制度は、業務の直接指導ではないため、導入の意義を見いだしにくいこともありますが、メンター制度の導入で成功している企業では、離職率の低下、女性の活躍の推進などで確実に成果を上げています。
メンター制度を導入する際は、全社員に対してその意義を周知するとともに、メンティとメンターのミスマッチを防ぐことが大切です。
この記事を参考に、メンター制度の導入を検討し、風通しの良い社内風土の醸成に役立ててください。