【ルネサンス時代から考える】マネジメントの語源と隠された本質

「マネジメントって何だろう」
「マネージャーに昇格したけど自分はマネジメントできているのか……」

今回はそんな方向けにドラッカーの『マネジメント』については一切触れず、歴史的な雑学を交えながら、マネジメントの語源と隠された本質についてご紹介します。後半では明日使えるマネジメント術としてマキャベリの『君主論』からいくつかエッセンスをご紹介します。

この記事でわかること

  • マネジメントの英語的な意味
  • マネジメントの語源と本質
  • マキャベリに学ぶマネジメント術
目次

マネジメントという言葉の誤解

皆さん、マネジメントと言うとどのようなイメージを持たれているでしょうか。

マネジメント=『管理』、マネージャー=『管理者』と認識されている方が多いと思います。

野球部のマネージャーなどの例から『影から組織をサポートする人』『縁の下の力持ち』のようなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。

しかし英和時点を見ると下記のように記載されています。

manage(動詞):①[manage to do](苦労の末に)どうにか〜する。②[~A]A(困難な事を)成し遂げる,やってのける

ウィズダム英和辞典 第3版 三省堂 2013年

マネジメントとは、元々一筋縄ではうまくいかない物事をどうにかしてうまくいかせるという意味があります。しかし日本語に翻訳する際に『管理』という簡素な言葉を当てはめてしまった為に、本来の言葉が持つ凄みや重みがごっそり抜け落ちてしまったように推察されます。

いかがでしょうか。皆さんの務めている会社のマネージャーは部下やプロジェクトを『マネジメント』できていますか。またすでに部下をマネジメントする立場にある読者の方はご自身がマネジメントできているか、考えてみる良い機会にして頂けると幸いです。

もう記事を締める流れに入っているのですが、本記事はまだ冒頭です。もう1段階掘り下げたマネジメントにまつわる雑学を用意しております。引き続きお付き合いください。

マネジメントの語源

皆さん、マネジメントという言葉はいつ頃成立したか、その語源についてはご存知でしょうか。

ピーター・ドラッガーが『マネジメント』を初版したのは1973年です。

では51年前でしょうか(2024年時点から数えて)。

いいえ、マネジメントの語源は16世紀のイタリアにまで遡ると言われています。
(※14世紀という説もございますが、後の説明の都合上、16世紀にします)

16世紀と言うと今から5世紀以上前、およそ400年以上前に当たります。

そしてその語源には意外にもある動物が深く関わっていました。

そう『馬』です。

しかもこんな可愛い馬ではなく、野生のもっと荒々しい馬です。

マネジメントの語源は、ラテン語のManeggiare(マネジャーレ)で『(野生の)馬を飼いならす、調教する』という意味でした。

マネージャーの皆さん、会社に飼いならされている場合じゃないですよ。逆にプロジェクト、部下を飼いならしてこそ一人前のマネージャーではないでしょうか。

話を戻すとManeggiareのManeとは、ラテン語で手を意味するManus(マヌス)という意味です。

手の爪に塗る染料のことをマニキュアや仕事で使用する手引書のことをマニュアルと読びますが、
どちらも同じ手に関わるManus(マヌス)という言葉から成り立っています。

それはさておき、凶暴な野生の馬を素手で捕まえて、家まで引きずっていく過程は一瞬も気が抜けない非常にスリリングな瞬間の連続であることは想像に難くないでしょう。

馬の体重は平均400kgほどあり、時速60km以上で走る脚力があります。仮に手綱を付けた状態とも言えど、成人男性の6倍以上の重さがある馬が突然暴れ出したら人間など一溜りもないでしょう。さらにその状態で全力疾走されたら時速60kmのスピードで地面を引きずり回されることになります。そうなれば万事休す。もはや調教者は無傷ではすまないでしょう。

16世紀のイタリア人にとってManeggiareとは文字通り、命がけの行為でした。

そんな語源を持つマネジメントに対して『管理』という翻訳は何か重要な要素が抜け落ちている気がするのは私だけでしょうか。マネジメントとは華やかなオフィスで行われるホワイトカラーの仕事というイメージがあります。しかしマネジメントの語源にはもっと泥臭い命がけの現場仕事というニュアンスがあり、日本語に訳される際に脱色されてしまったように感じます。

また記事を締める流れに入っているのですが、本記事はまだまだ中盤です。引き続きお付き合いください。

14~16世紀のマネージャー不在のイタリア

ここで14~16世紀のイタリアの話を紹介しましょう。

別にマネジメントの語源を紐解いたのは私が雑学を披露したかっただけではないことをお伝えします。

14~16世紀のイタリアはちょうどイタリアのフィレンツェを中心にルネサンス時代として文化的栄華を極めた時代でした。かのレオナルド・ダ・ヴィンチも15~16世紀に活躍した人物として知られています。

(※画像はDALL-E3で自動生成した自画像です)

他にはミケランジェロやラファエロなど、数多くの偉大な芸術家を生み出した時代でもあります。

しかしながらイタリアの国内においては政治的な権力の空白が生じ、国内には小国が乱立して内紛状態かつ、国外からはフランスやスペイン、オーストリアなどの強国が虎視眈々と侵略の機会を伺っているという無秩序な時代でした。

文化的な栄華を極めながらも政治的には混乱しているという意味では、令和の日本にも当てはまるのかもしれません。

倒産寸前の株式会社イタリアを経営再建する為のソリューション

そんな現代日本とも少し似通ったルネサンス期のイタリアにおいて、センセーショナルなマネジメント論を提唱した政治学者がいました。

彼の名はニッコロ・マキャヴェッリ。現代では権謀術数を用いて目的を達成すべきとする、マキャベリズムを説いた16世紀の政治学者です。

(※画像はDALL-E3で自動生成した自画像です)

マキャベリズムとは『目的の為に手段は正当化される』、いわゆる大義を達成するならばどんな手段を使っても構わないという思想です。友情・努力・勝利に代表される少年マンガ的な思想から友情と努力を省いたような冷徹な思想であると言えば、イメージしやすいです。

しかしなぜ彼はそんな悪名高い思想を世に問うことになったのでしょうか。マキャベリズムについて聞いたことはあってもその背景まで知っている人は少ないのではないでしょうか。

前述した通り、彼が生きていた時代のイタリアは国内は政治的に不安定で国外からは侵略の危機に瀕しているという状態でありました。

彼自身、フィレンツェ共和国で内政・軍事を扱う第二書記局の長、今で言うキャリア官僚だったのですが、ドイツやスペインの連合軍により国が攻め落とされて失職。その挙げ句、街から追放される憂き目にあっています。

そんな悲惨な経験から彼はイタリアの窮状を嘆き、イタリアを独立させる為には強力な君主が必要だと思い至りました。そして、そのソリューションとして『君主論』を発表しました。

君主論はいわば、倒産寸前の株式会社イタリアを再建してくれる有能な君主(=マネージャー)が現れることを待ち望み、将来現れるそんな救世主にあてたマネジメント論なのです。そうした背景から君主論は時代を超えて現代のエグゼグティブたちにも愛される古典的名著となっています。

君主論の特徴は、中世において支配的であったキリスト教的な倫理観を排した徹底したリアリズム(=合理主義)に基づく世界観です。

ルネサンス以前の中世ヨーロッパにおいてキリスト教の教えには絶対的な支配力がありました。それは日常生活だけではなく政治においても例外ではありませんでした。キリスト教圏における優れた君主の第一条件には、その政治手腕ではなくキリスト教の教義に則った誠実さや謙虚さ、慈悲深さが求められました。

マキャベリは優れた君主の条件を下記のように定義しています。

宗教や道徳に関係なく国家には、獅子の勇猛さと狐の狡智を兼ね備えた君主が必要だ

獅子の有猛さとは、これは力と勇気を象徴しており、君主が自らの権威を守り、敵対する勢力に立ち向かう能力を表しています。マキャベリは、敵や反逆者に対しては恐れをもって支配することが有効であると述べています。

狐の狡智とは、機知と策略を表し、君主が陰謀を見抜き、自らを守る為の政治的な巧みさや機敏さを持つべきであることを示しています。マキャベリは、単に力に訴えるだけではなく、状況を巧みに操り、表面的な誠実さを保ちながらも、必要に応じて約束を破ることも厭わないべきだと提唱しています。

マキャベリズムを代表するこの考え方は、当時のキリスト教的世界観とは真っ向から対立する考え方でした。その証左として彼の死後を待って1532年に公刊された本著は1559年にローマ教皇庁から悪魔の書として禁書目録に加えられています。最終的に1966年に禁書目録自体が廃止されるまで禁書指定されたままでした。

そういう意味ではマキャベリはその死後、17世紀に天文学で地動説を唱えて異端審問にかけられた
ガリレオ・ガリレイに先駆けて当時、支配的であったキリスト教的世界観に挑戦した人物と言えるでしょう。マキャベリとはいわば政治哲学界におけるガリレオ・ガリレイであり、マキャベリズムとは地動説であると言えます。

余談ですがキリスト教圏ではない日本に住む我々には馴染みがないですが、現代においてなお宗教教育は幼少期の倫理観を形成する上で重要な役割を果たしています。

たとえばビジネスの商談で海外に行ったとしましょう。アポイント先の担当者から「あなたは何教徒ですか?」という質問があった場合、「無神論者です」という回答はNGだとされています。

理由は前述した通りで、仮に先方から無神論者であると額面通り受け取られてしまうと場合によっては倫理観が欠如した何をしでかすかわからない危険人物と目されてしまう危険性があるからです。

当然、誰もそんな人間とはビジネスをしたいとは思わないですよね。

その為、仮に特定の宗教を信仰していなくても「I`m Buddhist.(私は仏教徒です)」という風に回答するのが無難でしょう。商談を成立させる為には信心深くなくても仏教徒を騙る。これも一種のマキャベリズム的実践と言えるのではないでしょうか。もし商談がうまくいったら初詣はお寺に行っていつもより多めにお賽銭をしてください。

明日使える君主論 7選

ではそんな名著である君主論から現代でも通用するマネジメントのエッセンスを一部引用します。

1:人は見たいものを見、見たくないものは見ないものである

解説1: マキャベリは、現実をありのままに受け入れ、それに基づいて行動することの重要性を説いています。ビジネスリーダーは、理想的な状況ではなく、実際の状況を元に意思決定を行うべきです。市場の動向、競合他社の行動、自社の強みと弱みを正確に把握し、それに基づいて戦略を練ることが成功への鍵です。

2: 幸運とは、風の性質に似ており、風向きを変えることはできないが、帆の向きを変えることはできる

解説2: 環境の変化に柔軟に対応し、必要に応じて方針を変更する能力は、ビジネスリーダーにとって不可欠です。市場や技術の変化に迅速に適応し、機会を捉えることが、競争優位性を維持する為に重要です。

3: 人々を驚かせることができれば、彼らを従わせることができる

解説: マキャベリは権力の維持には、尊敬と恐怖のバランスが重要であると説いています。不必要に部下を威圧する必要はありませんが、ビジネスリーダーが部下からの信頼と尊敬を得る為に、決断力と行動力を示す必要があります。同時に、権威を行使する際には、公平で倫理的な方法を選択することが重要です。

4:戦争の準備を怠ることは、自らの滅亡を招くことである。

解説:マキャベリは、常に戦争の可能性に備えておくことの重要性を強調し、その準備を怠ることは国家の安全を危険にさらすと警告しました。これは現代のビジネスにも当てはまることで、仮に現在は自社のビジネスや収益基盤が安定していても競合とのシェアを争う為に常に準備が必要であると言えます。

5.君主にとって最も重要な資質は、賢明であることである。

解説:マキャベリは、君主が成功する為には賢明さが最も重要な資質であると強調しました。賢明な君主は状況を正しく判断し、適切な決断を下すことができます。これは優秀なマネージャーにも当てはまります。優れたマネジメントには楽観主義や悲観主義、人の好き嫌いを排した上で冷静に事業や人材のアサインを行うことが不可欠です。

6.何もしないことを選ぶ者は、いつも破滅に向かう

解説: マキャベリは、状況に対して受動的な態度を取る指導者の運命を批判しています。積極的に行動し、状況をコントロールすることの重要性を説いており、この引用はその教訓を強調しています。組織において現状を変化させることはさまざまな波紋を呼び、時として変化に対する反対者を生むことから現状維持を好むマネージャーやサラリーマンは多いのではないでしょうか。しかし現状維持とは、現状に対するコントロールを手放すことに等しく、マキャベリはそうした事なかれ主義的な立場を避難しています。

7.時代の変化に適応できない者は、その破滅を招く

解説: マキャベリは変化を避けられないものとみなし、それに適応できる柔軟性を持つことの重要性を説いています。この引用は、変化に対して頑固であることの危険性を指摘しており、適応性の欠如が失敗や破滅につながることを警告しています。

まとめ

今回はマネジメントに関わる方向けにマネジメントという言葉の意味、その語源から同時代のマネジメント論としてマキャベリの『君主論』をご紹介しました。

今回はそのエッセンスをご紹介しましたので、マキャベリの君主論に興味を持たれた方はぜひ、原著の方にもチャレンジされることをオススメします。

一方で原著を読んだことがある人でも君主論の内容を実践できている人はほんの一握りです。そこでまずは自分の先入観や世間の固定観念を疑い、勇気を持って現状に変化を促すことから始めてみてはいかがでしょうか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ゲームプランナー、コンビニ店長を経て
現在はWeb広告の運用者やメディア運営に携わる。
趣味はサウナ巡り(1年間で40箇所以上のサウナを訪れる)
サウナ案件をお待ちしております。

目次