M&Aは、譲渡企業(売却)側にとっては、売却による事業の選択と集中。譲受企業(買収)側にとっては、事業拡大に必要な時間を買う意味があります。
この記事では、M&Aとは何かを簡単に解説し、
M&Aによる事業拡大などの成功事例をクロスSWOT別に紹介します。
この記事でわかること
- M&Aとは何か
- M&Aの国内の動向
- M&Aの国内
1.M&Aとは
M&Aとは何かを簡単に確認しましょう。M&Aと企業買収の違いにも触れます。
1.1M&Aとは
M&Aとは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略称のことで、企業と企業が合併したり、企業が他の企業を買収することを意味します。
M&Aには様々な手法がありますが、合併、株式譲渡、事業譲渡などが代表例です。
また、企業と企業が合体する形態だけでなく、業務提携や資本提携の形で経営面での協力関係を構築することを広義のM&Aと呼ぶこともあります。
1.2M&Aと企業買収の違い
M&Aと企業買収はどのように違うのでしょうか。結論から言うと、企業買収はM&Aの一種になります。
M&Aは企業同士の合併も含む概念ですが、企業買収は企業が他の企業の経営権を取得する買収のみを意味します。
具体的には、企業が他の企業の株式を取得する「株式譲渡」、他の企業と事業譲渡契約を結んで経営資源を取得する「事業譲渡」などが企業買収に当たります。
それに対して、合併は、複数の企業が一つの企業に統合されることを意味します。
1つの企業を残し、他の企業を消滅させたうえで統合する「吸収合併」、すべての企業を消滅させて新たな企業を設立する形で統合する「新設合併」があります。
M&Aは、この合併と企業買収を合わせた概念です。
2.M&Aの日本国内の動向
M&Aというと大企業だけの話で、中小企業には無縁と思われるかもしれません。
確かに、ニュースなどで話題になるのは、大企業のM&Aばかりですが、実は、中小企業でも活発にM&Aが行われるようになっています。
中小企業庁のデータによると、2014年度には、中小企業のM&Aは362件しかありませんでしたが、2021年度には、4917件となっています。中小企業のM&Aが右肩上がりで増加し続けていることが分かります。
2014年度 | 2021年度 | |
事業承継・引き継ぎ支援センター | 102件 | 1514件 |
民間M&A支援機関 | 260件 | 3403件 |
合計 | 362件 | 4917件 |
また、Web上でマッチング支援機能を提供する民間業者での登録者数と譲渡案件掲載数も増加しています。
2019年 | 2023年 | |
累計登録者数 | 57287名 | 366115名 |
累計譲渡案件掲載数 | 5860件 | 38970件 |
このように、大企業だけでなく、中小企業でもM&Aが注目され、活発に行われるようになっていることが分かります。
3.M&Aを行う目的 譲渡企業(売却)側
譲渡企業(売却)側がM&Aを行う目的を簡単に確認しましょう。
3.1後継者問題の解決
日本の中小企業は同族企業が多く、経営者の子どもが後継者になることがよくあります。
しかし、最近では、子どもが経営を引き継ぐとは限らず、また、少子高齢化により、後継者がいない企業も少なくありません。
そこで、事業が順調なのに経営者が高齢化し、後継ぎがいない場合に、第三者に事業を承継する目的でM&Aを行うことがあります。
3.2従業員の雇用を守る
経営を引き継ぐ後継者がいない場合、経営者が死亡すると、企業も廃業することになり、従業員の雇用が失われてしまいます。
こうした事態を防ぐために、M&Aにより第三者に経営を託して、従業員の雇用を守る目的があります。
3.3事業の選択と集中
複数の事業を展開している企業の場合は、業績の良い事業と悪い事業があります。経営の足かせとなっている場合は、業績の悪い事業を売却し、業績の良い事業に経営資源を集中させて、さらなる成長を図る目的でM&Aが行われることがあります。
4.M&Aにより譲渡企業(売却)側が得られるメリット、デメリット
譲渡企業(売却)側がM&Aを行うことで得られるメリット、デメリットを簡単に確認しましょう。
4.1M&Aにより譲渡企業(売却)側が得られるメリット
譲渡企業(売却)側がM&Aを行うことで得られるメリットは次の通りです。
4.1.1事業承継問題が解決する
後継者問題の解決や従業員の雇用を守ることを目的にM&Aを行った場合は、事業を引き継ぐ人が見つかることで、これらの問題を解決できるメリットがあります。
4.1.2資金調達ができる
M&Aにより、経営権や事業を譲渡することにより、一定の資金が入ってきます。その資金を新たな事業や集中したい事業に投下することができるメリットがあります。
4.1.3経営者の個人保証の解消
中小企業の場合、経営者が会社の債務を個人保証していることがよくありますが、経営権や事業を譲渡することにより、経営者の個人保証も解消されることがあります。
4.2M&Aによる譲渡企業(売却)側のデメリット
譲渡企業(売却)側がM&Aを行うことで負うデメリットは次の通りです。
4.2.1従業員の雇用が守られるとは限らない
M&Aの形態によっては、従業員全員の雇用が守られるとは限りません。特に事業譲渡契約の場合は、従業員は譲受会社との間で新たに雇用契約を締結するのが基本です。そのため、雇用が引き継がれない従業員が出てしまう可能性もあります。
4.2.2譲受企業が見つかるとは限らない
M&Aは、事業や経営権を譲り受けてくれる企業があって成り立つものですから、譲受企業が現れなければ、意味がありません。
事業や経営権の譲渡を検討していることが外部に知られた場合、経営の悪化などが懸念されて、取引先から契約を打ち切られるなどの弊害が生じてしまうこともあります。その意味でM&Aに踏み切ることは、譲渡企業にとってリスクを伴います。
4.2.3想定通りの資金調達につながらないこともある
M&Aでは、譲渡企業の想定していた価額で譲受会社が事業や経営権を買ってくれるとは限らないため、期待したほどの資金調達ができないこともあります。
5.M&Aを行う目的 譲受企業(買収)側
譲受企業(買収)側がM&Aを行う目的を簡単に確認しましょう。
5.1新規事業への参入
企業が新たに事業を立ち上げるには、資金、人材、ノウハウなど、様々なものが必要になります。また、新規事業が軌道に乗るまでは、長い時間がかかることもあります。
既にその事業を立ち上げている企業を買収したり、事業譲渡を受けることにより、新規事業立ち上げに必要なものや時間を買う意味があります。
5.2スケールメリットの獲得
買収する企業が同業他社であれば、その他社の買収により事業規模を拡大することができます。事業規模の拡大により、ブランドや認知度が高まり、取引先との交渉などでも有利になります。
5.3自社の部門の強化
自社に不足しているノウハウや人材、取引先などを他社の買収により獲得することを目的とすることがあります。
例えば、自社のデジタルマーケティング部門が弱い場合に、デジタルマーケティングに強いIT系企業を買収するという形で、自社の部門の強化を図ることがあります。
6.M&Aにより譲受企業(買収)側が得られるメリット、デメリット
譲受企業(買収)側がM&Aを行うことで得られるメリット、デメリットを簡単に確認しましょう。
6.1M&Aにより譲受企業(買収)側が得られるメリット
譲受企業(買収)側がM&Aを行うことで得られるメリットは次の通りです。
6.1.1自社の事業を成長させることができる
どのような目的でM&Aを行うにしても、譲受企業(買収)側は、新規参入や事業規模の拡大、自社部門の強化により、自社の事業の成長につなげることができます。
6.1.2成長に必要な時間を買うことができる
新規参入、事業規模の拡大、自社部門の強化のいずれの目的でも、自社が一から始めていたら、時間がかかってしまいます。M&Aにより、成長に必要な時間を買うことができるメリットがあります。
6.1.3自社の事業の成長に必要なコストを削減できる
新規参入、事業規模の拡大、自社部門の強化のいずれを行うにも、一定のコストがかかります。M&Aにより、既存の企業を買収したり、事業譲渡を受けることにより、こうしたコストを削減することができます。
6.2M&Aによる譲受企業(買収)側のデメリット
譲受企業(買収)側がM&Aを行うことで負うデメリットは次の通りです。
6.2.1融合に時間がかかる
企業にはそれぞれの企業風土があるため、M&Aにより、一つの企業としてまとまっても、企業風土の違いを乗り越えて融合するまでに長い時間がかかってしまうこともあります。このような事態になると、M&Aによるメリットが少なくなるため、企業風土が似ている企業とM&Aを行うことが大切です。
6.2.2収益化できるとは限らない
譲渡企業(売却)側が事業を手放すのは、収益が上がっていないことが理由の場合もあります。この場合、譲受企業(買収)側が、M&A後に事業を成長させて、収益化を図る必要がありますが、必ずしも、成功するとは限らない点でリスクを伴います。
6.2.3優秀な人材が流出してしまう
M&Aにより、譲渡企業(売却)側から転籍した従業員の人事制度は、譲受企業(買収)側に合わせることになりますが、転籍した従業員がなじめなかったり、不信感や反感を抱いてしまうこともあります。一方で、転籍した従業員を優遇すると、既存の従業員の反発を招いてしまいます。
こうした事態は優秀な人材の流出につながりかねないため、双方に不公平感のない人事制度を構築することが大切です。
7.M&Aの具体例をクロスSWOT別に紹介
クロスSWOT分析(強み×機会、弱み×機会、強み×脅威、弱み×脅威)に沿って、
M&Aに成功した具体的な事例を4つ紹介します。
まず、SWOT分析とは、企業の内部環境である「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」、外部環境である「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの要素項目から、市場における自社の立ち位置を分析する方法です。
SWOT分析から抽出した「強み」「弱み」「機会」「脅威」を掛け合わせて、自社の課題の解決策を考えるのがクロスSWOT分析です。
具体的には次の4つの分類になります。
1.「強み×機会」強みを活かしてビジネスチャンスを掴むにはどうすべきか。
2.「弱み×機会」弱みを克服してビジネスチャンスを掴むにはどうすべきか。
3.「強み×脅威」強みを活かして脅威に対処するにはどうすべきか。
4.「弱み×脅威」弱みがあり脅威にさらされている状況でどう対処すべきか。
ここでは、クロスSWOT分析の結果をM&Aに活かして成功した事例を紹介していきます。
7.1 強み×機会 日本代理店がYogibo米国本社を逆買収した事例
クロスSWOT分析から見た「強み×機会」を組み合わせたM&Aは、技術的な強みを持つ企業が市場拡大の機会を持つ企業を買収する事例が代表例です。
具体的な事例としては、アフィリエイトサービスの『電脳卸』を運営していた株式会社ウェブシャークがビーズソファのYogibo(ヨギボー)を買収した事例が知られています。
ウェブシャークは、もともと電脳卸を初めとする日本のEC部門で強みを持っていました。一方でYogiboは、アメリカを中心に展開していたビーズソファを日本で展開する機会を伺っていました。そこで、ウェブシャークはYogiboの日本代理店として日本国内に店舗を展開しました。
しかし最終的にウェブシャークはYogiboの国内シェアを大きく伸ばし続け、最終的にはなんと米国本社を逆買収するという事態に発展しました。
Yogiboの店舗は、アメリカや日本などの世界8カ国、130店舗ありますが、このうち、86店舗は日本で展開しています。日本での事業展開が好調だったことから、ウェブシャークがYogiboを買収することになりました。
7.2 弱み×機会 電通がセプテーニを買収した事例
クロスSWOT分析から見た「弱み×機会」を組み合わせたM&Aは、資金力のある企業が新興の成長市場への進出を試みる際に、その技術力があってもリソース不足の企業を買収する事例が代表例です。
具体的な事例としては、電通グループがセプテーニグループを買収した事例が知られています。
電通は、広告代理店としての強みを持っていますが、デジタル技術やIT分野に課題があり、強化が必要でした。
一方、セプテーニは、デジタル関連の事業の強みがあるものの日本国内での事業に焦点を当てており、国際市場への展開が限定的であるなどリソース不足でした。
そこで、電通がセプテーニを買収することで両社のそれぞれの事業を強化することにつながりました。
電通は、セプテーニのデジタル技術と電通のクライアントネットワークを組み合わせることで、新たなビジネスチャンスを掴み、セプテーニは電通のグローバルネットワークを活用して、国際市場への展開を図れるわけです。
7.3 強み×脅威 マネックス証券のコインチェック買収
クロスSWOT分析から見た「強み×脅威」を組み合わせたM&Aは、全国的な店舗展開など既存の市場での強みがあっても、 オンラインショッピングの台頭に代表されるデジタル化の脅威にさらされている企業が、デジタル部門を強化するためにIT系企業を買収する例が代表例です。
具体例としては、マネックス証券によるコインチェックの買収が知られています。
マネックス証券は、強固な財務基盤を持ち、豊富な投資関連の知識・経験と確立された顧客基盤を有しています。一方で、仮想通貨市場の急成長に代表される金融業界におけるデジタル化の脅威にさらされていました。
そこで、仮想通貨市場で強みを持つコインチェックを買収することで、コインチェックのプラットフォームと顧客基盤を活用して、仮想通貨投資サービスに進出。さらに、コインチェックが直面していたセキュリティ問題の改善を図って、より安全な仮想通貨取引環境を構築しました。
マネックス証券は金融業界における競争力を高め、将来的な成長機会を確保することができました。
7.4 弱み×脅威 ソニーのPC事業(VAIO)売却
クロスSWOT分析から見た「弱み×脅威」を組み合わせたM&Aは、ある事業の業績が頭打ちになっている状況において、市場での価格などの競争が激化している場合に、その事業を売却することで、経営資源の効率的な再配分と事業構造の改革を図る事例が代表例です。
具体例としては、ソニーのVAIO事業撤退が知られています。
VAIOは品質やデザインで高い評価を受けていたものの、パソコン市場の価格競争の激化、スマートフォンやタブレットの台頭による市場の縮小に直面していました。VAIOを展開するソニーも業績が伸び悩み、経営資源の効率的な活用とコアとなるエンターテインメント関連事業の成長が課題となっていました。
そこで、ソニーはVAIO事業を日本産業パートナーズ(JIP)に売却することで、事業ポートフォリオの再構築と、長期的な収益性の向上を図ることに成功しました。
そのおかげて、ソニーはエンターテインメント関連事業のリーダーとしての地位を維持していますし、VAIOもデザイン性と品質の高さを維持し、一定のユーザー層から支持を受けています。
8.まとめ
現在、M&Aを試みる企業は、デジタルマーケティング部門の強化を図ることを目的としていることも多いようです。
これまで紹介したように、デジタルマーケティング部門で強みを持つ企業を買収したり、他社のデジタルマーケティング部門の事業譲渡を受けることは、大変有効です。
しかし、デジタルマーケティング部門の強化を課題としている企業はたくさんあるため、なかなか譲渡企業(売却)が見つからないこともあります。
このような場合は、自社でデジタルマーケティングをインハウス化する選択肢もあります。
M&Aによって得られるメリットも莫大ですが、デメリットも存在します。
本当にM&Aでしか選択肢がないのか。一度ゼロベースで考えてみても良いかもしれません。