2024年もエネルギー価格の高騰や物価の高騰などによる経済低迷は依然として続いています。
中小企業にとって、資金繰りは経営の最重要課題の一つと言えるでしょう。そんな中、事業の成長や安定化を支援する補助金制度は、今こそ積極的に活用すべき貴重なチャンスです。
しかし、数多くの補助金制度が存在し、それぞれに異なる要件や申請方法があるため、最適な補助金を見つけるのは容易ではありません。
私は中小企業診断士として、様々な補助金の申請支援を行っています。そこで本記事では、2024年度に中小企業が利用できる主要な補助金制度を網羅的に紹介し、それぞれの基礎知識を解説します。
さらに、補助金申請の成功率を高めるためのポイントや、補助金活用の注意事項についても解説します。
中小企業にとって補助金とは?
補助金とは、国や地方自治体などが、特定の事業を推進するために支給する金銭的な支援制度です。
返済義務がないため、企業にとって資金調達の貴重な手段となります。補助金制度の目的は、以下のものが挙げられます。
- 中小企業の事業成長を促進すること
- 新規事業の創出を支援すること
- 雇用創出や地域経済活性化に貢献すること
補助金の種類は多岐に渡り、事業内容や規模、地域などによって利用できる補助金制度が異なります。代表的な補助金制度としては、以下のものがあります。
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり補助金
- 事業再構築補助金
- IT導入補助金
- 省力化投資補助金
補助金と助成金の違いとは?
補助金と似たような内容で助成金という言葉を聞くことも多いかと思います。
補助金、助成金とも国や自治体が実施し、返済義務がない金銭的な支援という点では同様です。しかしながら、この2つには以下のような違いがあります。
補助金
基本的には審査があり、採択された事業者だけがもらえます。申請しても必ずもらえるわけではありません。
助成金
基本的には要件を満たせばもらえます。ただし、予算上限があり、申請者が多い場合は期限前に締め切られる場合もあります。
2024年度の中小企業向け補助金一覧
2024年度には、中小企業を対象とした様々な補助金制度が設けられています。以下に、代表的な補助金制度をいくつか紹介します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、持続化補助金ともよばれ、小規模事業者の販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する補助金です。
名前に小規模事業者とある通り、対象は小規模事業に該当する法人、個人事業、特定非営利法人です。小規模事業者の定義は常時使用する従業員数で定められており、以下のようになります。
対象者
商業・サービス業(宿泊・娯楽業除く) | 常時使用する従業員数5人以下 |
---|---|
宿泊・娯楽業 | 常時使用する従業員数20人以下 |
製造業その他 | 常時使用する従業員数20人以下 |
補助金額
持続化補助金は補助上限50万円・補助率2/3の通常枠を基本に補助上限が上がる特別枠が設けられています。特別枠は特別な要件を満たすことで申請が可能となります。
類型 | 通常枠 | 賃上げ枠 | 卒業枠 | 後継者支援枠 | 創業枠 |
---|---|---|---|---|---|
補助率 | 2/3 | 2/3(赤字事業者は3/4) | 2/3 | ||
補助上限 | 50万円 | 200万円 | |||
インボイス特例 | 上記補助上限に50万円上乗せ |
持続化補助金について、通常枠は長年、大きな変化はありませんが、補助上限が上がる特別枠は公募回によって内容が変わる場合があるので、申請の際には最新の情報をチェックしてください。
また、お住いの地域により、商工会議所地区、全国商工会連合会の2つの窓口があるため注意が必要です。
ご自身がどちらに該当するかわからない場合には、お近くの商工会議所または商工会にお問い合わせください。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、一般的には「ものづくり補助金」と呼ばれることが多い補助金です。
ものづくり補助金と聞くと、製造業等のものづくりのみに利用できると勘違いをされがちですが、正式名称にあるように、商業やサービス業などにも広く利用する事が可能です。
中小企業・小規模事業者の生産性向上の取り組みや持続的な賃上げに向けた革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの省力化に必要な設備投資・システム構築が補助対象です。
対象者
- 中小企業者
- 小規模企業者
- 小規模事業者
- 特定非営利法人
- 社会福祉法人
補助金額
取組内容等により複数の枠が設けられており、補助上限や補助率が異なります。また、補助上限については、従業員数により幅があります。
枠・類型 | 補助上限 | 補助率 | |
---|---|---|---|
省力化(オーダーメイド枠) | 750万円~8,000万円 | 中小企業1/2小規模・再生2/3 | |
製品・サービス高付加価値枠 | 通常類型 | 750万円~1,250万円 | 中小企業1/2小規模・再生2/3新型コロナ回復加速化特例2/3 |
成長分野進出類型 | 1,000万円~2,500万円 | 2/3 | |
グローバル枠 | 3,000万円 | 中小企業1/2小規模2/3 |
ものづくり補助金も枠や類型は公募回によって異なる場合があるため、申請の際には最新の情報をチェックしてください。
また、金額の規模が大きく要件に沿った計画書の作成が必要なため、要綱をよく読み、条件を確認し、条件に沿った取り組み内容を検討することが大切です。
事業再構築補助金
再構築補助金は、新型コロナの影響の長期化により、当面の需要や売上の回復が期待し難いなかで、ウィズコロナ・ポストコロナを見据えた新市場進出や事業・業種転換、事業再編等の取り組みを支援するため、コロナ禍で新たにつくられた補助金です。
既存の事業から新しい業種・業態等への進出が必要なことに加え、申請には様々な要件があるため、申請の際には特に要綱を読み込み、計画を練る必要があります。
対象者
- 中小企業者
- 小規模企業者
- 小規模事業者
- 中堅企業者
補助金額
補助金額は申請する類型と従業員数により細かく分かれています。さらに申請できる類型については、細かな要件等があるため要綱を読み込み理解することが大切です。
内容も煩雑であるため、専門家に相談することもおすすめです。
事業類型 | 補助上限 | 補助率 |
---|---|---|
成長分野進出枠(通常類型) | 従業員数20人以下:100万円~1,500万円(2,000万円) 従業員数21人~50人:100万円~3,000万円(4,000万円 従業員数51人~100人:100万円~4,000万円(5,000万円) 従業員数101人以上:100万円~6,000万円(7,000万円) ※( )内は短期に大規模な賃上げを行う場合 | 中小企業等:1/2(2/3) 中堅企業等:1/3(1/2) ※( )内は短期に大規模な賃上げを行う場合 |
成長分野進出枠(GX進出類型) | 中小企業等従業員数20人以下:100万円~3,000万円(4,000万円) 従業員数21人~50人:100万円~5,000万円(6,000万円) 従業員数51人~100人:100万円~7,000万円(8,000万円) 従業員数101人以上:100万円~8,000万円(1億円) 中堅企業等100万円~1億円(1.5億円) ※( )内は短期に大規模な賃上げを行う場合 | 中小企業者等:1/2(2/3) 中堅企業等:1/3(1/2) ※( )内は短期に大規模な賃上げを行う場合 |
コロナ回復加速化枠(通常類型) | 従業員数5人以下:100万円~1,000万円 従業員数6人~20人:100万円~1,500万円 従業員数21人~50人:100万円~2,000万円 従業員数51人以上:100万円~3,000万円 | 中小企業者等:2/3 中堅企業等:1/2 |
コロナ回復加速化枠(最低賃金類型) | 従業員数5人以下:100万円~500万円 従業員数6人~20人:100万円~1,000万円 従業員数21人以上:100万円~1,500万円 | 中小企業者等:3/4(一部2/3) 中堅企業:2/3(一部1/2) |
サプライチェーン強靭化枠 | 中小企業者等、中堅企業等ともに1,000万円~5億円 | 中小企業等:1/2 中堅企業等:1/3 |
参考:事業再構築補助金
IT導入補助金2024
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化やDX化に向けたITツールの導入を補助する補助金です。
この補助金の特徴は、中小企業・小規模事業者等の補助金申請者は、IT導入補助金事務局に登録されたIT導入支援事業者とパートナーシップを組んで申請する必要があることです。
対象者
- 中小企業・小規模事業者等
補助金額等
IT導入補助金の類型と補助上限は以下の通りとなりますが、ご覧の通り非常に複雑なので、IT導入支援事業者に相談をしながら検討することをお勧めします。
通常枠 | インボイス枠 | 複数社連携IT導入枠 | セキュリティ対策推進枠 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
インボイス対応類型 | 電子取引類型 | ||||||||
補助額 | 5万円~150万円未満 | 150万円~450万円以下 | ITツール | PC・タブレット等 | レジ・発券機 | ITツール | (1)インボイス対応類型の対象経費⇒左記と同様 (2)上記(1)以外の経費補助上限額50万円×グループ構成員数(1)+(2)で補助上限3,000万円 (3)事務費・専門家費補助上限:200万円 | 5万円~100万円 | |
下限なし~350万円 | ~10万円 | ~20万円 | ~350万円 | ||||||
~50万円部分 | 50万円超~350万円部分 | ||||||||
補助率 | 1/2以内 | 3/4以内 ※小規模事業者は4/5 | 2/3以内(※1) | 1/2以内 | 中小企業・小規模事業者:2/3以内その他事業者等:1/2以内 | (1)インボイス対応類型と同様(2)・(3)2/3以内 | 1/2以内 | ||
補助対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア関連費、導入関連費 | クラウド利用費(最大2年分) | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費 | サイバーセキュリティサービス利用料(最大2年分)(※2) |
(※1)交付額が50万円調の場合の補助率は、当該交付額のうち50万円以下の金額について3/4、50万円超の金額については2/3。
(※2)「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているいずれかのサービス
参考:IT導入補助金2024
省力化投資補助金
2024年から新たに登場する補助金で、企業の人手不足が深刻となるなか、IoTやロボットなどの汎用製品の導入を支援する補助金で、中小企業等の付加価値や生産性の向上、さらには賃上げにつなげることを目的としています。
この補助金の特徴は、IT導入補助金と似た建てつけになっており、事務局に登録された販売事業者が扱う汎用製品を「カタログ」から選択・導入します。
対象者
- 中小企業者
- 小規模企業者
- 小規模事業者
- 特定非営利法人
補助金額等
補助上限金額は従業員数によって異なります。さらに一定の賃上げ要件を達成した場合には補助額が引き上げられます。
補助上限額 | 補助率 | |
---|---|---|
従業員数5名以下 | 200万円(300万円) | 1/2以下 |
従業員数6~20名 | 500万円(750万円) | |
従業員数21名以上 | 1,000万円( 1,500万円) |
※賃上げ要件を達成した場合()内の値に補助上限を引き上げます。
補助対象製品カテゴリ(カタログ掲載設備)
A.清掃ロボット、B.配膳ロボット、C.自動倉庫、D.検品・仕分けシステム、E.無人配送車(AGV、AMR)、F.スチームコンベクションオーブン、G.券売機、H.自動チェックイン機、I.自動精算機
参考:中小企業省力化投資補助金
補助金採択の成功率を高めるためのポイント
補助金申請は、書類審査等があり、必ずしもすべての申請が採択されるわけではありません。申請の成功率を高めるためには、以下のポイントに注意することが重要です。
- 自社の事業に合った補助金を選ぶ
- 申請要件をしっかりと確認する
- 必要書類を漏れなく準備する
- 事業計画書を丁寧に作成する
補助金活用の注意点
補助金を適切に活用するためには、いくつかの注意点があります。補助金は適切に扱わなければ採択後に取り下げになる場合もあるため慎重に手続きを進める必要があります。
補助対象経費として認められないものがある
補助金を申請する際に認められる対象については、各補助金で補助対象経費、対象外経費が明確に決められています。
対象外経費については、仮に補助金が採択された場合でも部分的に対象外経費として除外されてしまいます。そのため計画書作成段階でしっかりと要綱を確認し、不明な経費については、補助金事務局に問い合わせることが重要です。
補助事業の実行は交付決定後が多い
多くの補助金では、採択が決まった後に金額が確定する交付決定が行われます。
補助事業計画で導入する対象については、この交付決定後からのみ認められる場合が多いです。交付決定前に補助対象経費の支出は対象外となってしまう補助金も多いため、交付決定を待つ必要があります。
補助事業に取り組めるまでにはタイムラグがあることが多い
多くの補助金では、申請の締切から採択までに審査があり、先に述べたように採択後の交付決定からの取り組みが基本となります。
採択までには約2カ月程度かかる補助金も多く、さらに交付決定にも時間を要することも少なくありません。
つまり、申請から数えると実際に補助事業に取り組めるまでに、タイムラグがあるため、すぐに取り組みたい計画や、実施時期が重要な計画には向かない傾向があります。
補助事業の実行は交付決定後が多い
多くの補助金では、採択が決まった後に金額が確定する交付決定が行われます。補助事業計画で導入する対象については、この交付決定後からのみ認められる場合が多いです。
交付決定前に補助対象経費の支出は対象外となってしまう補助金も多いため、交付決定を待つ必要があります。取り組めるようになるまでには早くても2カ月程度かかるため、緊急で必要なものや、補助事業の実施時期が重要な計画には向かない傾向があります。
補助事業は計画書に記載の部分のみが対象となる
補助金の対象経費として認められるものは、原則、事前に計画書で記載したもののみとなります。
採択後に新たに追加する等は基本的にはできないため、計画段階からしっかりと計画を練り必要な経費を盛り込んだ計画書を作成することが重要です。
補助事業の金額は立替払いの必要がある場合が多い
多くの補助金は採択されてすぐにお金が振り込まれるわけではありません。事前に自社で立替払いにより補助事業を実施し、報告書を提出することで補助金が振り込まれるという流れが基本となります。
つまり、補助事業の経費については、事前に自社で資金を用意しておくことが必要となります。また、先にも紹介した各種補助金制度からもわかるように一部は自己負担となります。無計画な補助金活用は逆に自社の経営を圧迫してしまう可能性もあるため、自社の経営状況に合わせた活用が重要です。
まとめ
補助金制度の適切な活用は、自社の持続的な成長や新しいチャレンジに有効です。
本記事で紹介した補助金制度を参考に、自社の事業に合った補助金を見つけ積極的に活用することで、事業の成長・安定化、新たな事業への挑戦など、様々な目標達成に役立てることができます。
補助金申請は、一見複雑で煩雑な手続きに思えるかもしれませんが、専門家や支援機関のサポートを活用することで、比較的スムーズに申請を進めることができます。補助金に関する疑問や不安があれば、積極的に情報収集を行い、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
また、補助金には公募回ごとに締め切りが設けられており、締め切りを逃すと活用したいタイミングで利用できないことがあります。補助金の活用を検討されている方は、積極的に情報収集するなど、機会を逃さないよう注意しましょう。