優秀な人材を獲得・育成し、高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えることは、企業の成長に不可欠です。
しかし、従来の人事制度や業務では、変化の激しい現代社会に対応しきれないケースも少なくありません。
そこで注目されているのが、HRと呼ばれる新しい概念です。
「HR」や「HRテック」の言葉を耳にする機会が増えたと感じる人も多いでしょう。しかし、HRの意味や役割を正確に説明できますか?
「なんとなくしか理解できていない…」と考える人も少なくないのではないでしょうか?
本記事では、HRついて企業の管理部に3年在籍した筆者が紹介します。行政書士補助者として多くの起業家をサポートした経験を元に、HRとは何か、HRの役割、HRテックの最新動向を説明します。
HRを理解し、自身の成長と企業の貢献につなげていきましょう。
HRとは何か?
近年、企業の成長戦略に関して、「HR」の言葉が注目されています。しかし、「HR」と聞いて具体的にどのような役割を担っているのか、人事部との違いは何か、明確に理解している人は多くありません。
HRとは、「Human Resources」の略称で、「人的資源」の意味です。企業にとって最も重要な資源である人材を効果的に活用し、組織全体のパフォーマンス向上に貢献を目的とした専門領域です。
従来の人事部は、採用、育成、評価、労務管理といった事務処理的な業務に重点を置いていました。
一方、HRは人材を単なる労働力ではなく、企業の競争力を高める戦略的資産と捉え、経営戦略に沿った人材戦略の策定・実行を行います。
HRは、企業の成長戦略に関して重要な役割を担っていますが、ビジネスマンにとっても理解しておくべき重要な概念です。
ビジネスマンがHRを理解しておくことで、以下のようなメリットがあります。
- 自身のキャリアパスを設計しやすくなる
- 組織全体のパフォーマンス向上に貢献できる
- 変化に対応できる
HRは、企業の競争力を高める重要な要素です。HRを理解し、自身のキャリアアップや組織全体のパフォーマンス向上に貢献できるよう努めましょう。
HRと人事部の違い
日本では「HR」と「人事」が混同されがちですが、両者の間には明確な差異が存在します。
大きく違う考えは主に以下のポイントです。
- 役割と責任
- 視点
- アプローチ
それぞれの違いをみていきましょう。
役割と責任
人事部とHRは、人材に関する業務を担当していますが、役割と責任には以下のような違いがあります。
人事部 | HR | |
主な役割 | 人材に関する事務処理的な業務 | 経営戦略に沿った人材マネジメント |
---|---|---|
責任範囲 | 個々の従業員 | 組織全体 |
視点 | 従業員満足度向上 | 組織全体のパフォーマンス向上 |
スキル | 労務管理に関する専門知識 | 経営戦略、データ分析、組織開発など幅広い知識とスキル |
課題 | 事務処理業務に偏重 | 人材データの活用不足 |
対応 | テクノロジーの活用 | データ分析スキルの向上 |
従来の人事部は、個々の従業員に対して事務処理的な業務を担当していました。一方、HRは経営戦略に沿った人材マネジメントを行い、組織全体のパフォーマンス向上に貢献することを目的としています。
人材に関する視点
人事部とHRは、人材に関する視点が大きく異なります。主な違いは以下のとおりです。
人事部の視点 | HRの視点 |
従業員満足度 個々の能力 公平性 | 組織のパフォーマンス 人材戦略 データ分析 組織開発 従業員エンゲージメント |
人事部とHRは、人材に関する視点が大きく異なるため、役割や責任も大きく異なります。
課題解決へのアプローチ
人事部とHRは、人材に関する課題解決へのアプローチにも違いがあります。人事部は、個々の従業員に対して、以下のような個別対応を行うことが多いです。
人事部 | |
---|---|
採用 | 応募者一人ひとりの能力や経験を評価し、企業に合致する人材を採用 |
育成 | 個々の従業員のニーズや目標に合わせた研修や教育を実施 |
評価 | 個々の従業員のパフォーマンスを評価 |
労務管理 | 個々の従業員の勤怠や給与などの労務管理 |
一方、HRは、組織全体を俯瞰し、以下のような戦略的な取り組みを行います。
HR | |
---|---|
人材戦略 | 経営戦略に基づいて、必要な人材を計画的に獲得、育成、配置 |
データ分析 | 人材データ分析を活用し、組織全体の課題を特定し、解決方法を検討 |
組織開発 | 組織全体の構造や文化、コミュニケーションなどを改善 |
HRの活動がどのように企業に貢献しているのか理解し、 HRの積極的な活用が重要です。
HRと人事部の違いを理解し、HRの活動に積極的に関わることで、キャリアアップにもつながります。
HRの主な役割と責任
HRの主な役割と責任は以下のとおりです。
- 人材戦略の策定
- 人材の採用
- 人材育成
- 組織開発
- 従業員エンゲージメントの向上
人材戦略の策定
HRの最も重要な役割の一つは、企業のビジョンや目標に基づいた人材戦略の策定です。人材戦略とは、企業が目標達成のために必要な人材をどのように確保、育成、活用していくのかを定めた計画です。
人材戦略を策定する際には、以下の点を考慮する必要があります。
企業のビジョン・目標 | 企業が目指す未来と、それを達成するために必要な人材像を明確にする |
---|---|
事業環境 | 業界の動向、競合状況、技術革新など、事業を取り巻く環境を分析し、必要なスキルや経験を特定する |
従業員データ | 従業員の年齢、スキル、経験、離職率などのデータを分析し、課題を特定する |
これらの情報分析に基づき、以下の要素を明確に定義します。
- 必要な人材
- 採用計画
- 育成計画
- 評価制度
- 報酬制度
人材戦略は、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するために不可欠です。HRは、人材戦略の策定を通じて、企業の成長に貢献する重要な役割を担っています。
人材の採用
HRは、企業の成長戦略に合致する人材を効率的に採用する責任を担っています。
従来の人事部が事務処理的な業務に重きを置いていたのに対し、HRは採用活動を戦略的に捉え、以下の点を意識しながら人材採用を行います。
採用計画の策定 | 事業計画に基づき、必要な人材のスキルや経験、人数などを明確化 採用市場の動向や競合他社の状況も分析し、適切な採用計画を策定 |
---|---|
採用活動の効率化 | オンライン面接やAI選考など、最新の技術を活用して採用活動を効率化 |
データ分析の活用 | 応募者データや採用活動に関するデータを分析し、採用活動の改善 |
多様性の尊重 | 性別、年齢、国籍、障がいの有無など、多様な人材の採用を推進 |
HRは、採用活動を通じて、企業の競争力を高める人材を獲得する重要な役割を担っています。
HRは、単にスキルや経験を持つ人材を採用するだけではなく、企業文化に合致し、組織に貢献できる人材の採用を重視します。
具体的に評価する主なポイントは、以下のとおりです。
- 学習意欲(新しいことを学び、成長しようとする意欲)
- コミュニケーション能力(チームワークを重視し、周囲と円滑にコミュニケーションを取れる能力)
- 問題解決能力(課題を分析し、解決策を提案できる能力)
- リーダーシップ(チームをまとめ、目標達成に導ける能力)
HRは、これらのポイントを参考に企業の成長に貢献できる人材を採用します。
人材育成
HRは、従業員のスキルや経験を向上させ、企業の成長に貢献できる人材へと育成する責任を担っています。
従来の人事部が研修や教育といった個別施策に注力していたのに対し、HRは組織全体の戦略的な視点を重視します。
具体的には、以下の点を意識しながら育成プログラムを設計・実行します。
育成ニーズの分析 | 従業員一人ひとりのスキルや経験、キャリア目標などを分析し、育成ニーズを明確化します。企業のビジョンや目標に基づき、必要なスキルや経験を定義します。 |
---|---|
個別育成と組織育成の両立 | 個々の従業員の能力向上を支援する個別育成と、組織全体の能力向上を目指す組織育成の両立を目指します。研修プログラムやOJT、オンデマンド学習など、多様な育成方法を組み合わせ、効果的な育成プログラムを提供します。 |
データ分析の活用 | 育成プログラムの効果を測定するために、研修後のパフォーマンスや離職率などのデータを分析します。分析結果に基づき、育成プログラムを改善します。 |
キャリア開発の支援 | 従業員一人ひとりが自身のキャリアプランを設計し、目標達成を支援します。キャリアカウンセリングや社内異動制度などを活用し、従業員のキャリアアップをサポートします。 |
HRは、人材育成を通じて、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するために重要な役割を担っています。
組織開発
HRは、組織全体のパフォーマンス向上を目指して、組織開発に取り組みます。
従来の人事部は従業員個々の課題解決に注力していました。一方、HRは組織全体の構造や文化、コミュニケーションなどに着目します。
HRでは、主に以下のような活動を通じて組織の活性化を促進します。
組織課題の分析 | 従業員アンケートやインタビュー、離職率などのデータ分析を通じて、組織が抱える課題を特定 |
---|---|
課題解決に向けた施策の実施 | 課題解決に向けた具体的な施策を企画・実行 チームワーク研修、コミュニケーション研修、リーダーシップ研修、評価制度の改善など、組織全体のパフォーマンス向上に貢献する施策を実施 |
変化への適応 | 従業員の学習意欲や適応力を高め、変化を恐れず積極的に挑戦できる組織文化を醸成 |
HRは、組織開発を通じて、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するために重要な役割を担っています。
従業員エンゲージメントの向上
HRは、従業員の仕事への意欲や組織への帰属意識を高め、企業全体のパフォーマンス向上に貢献する従業員エンゲージメントの向上に取り組みます。
従来の人事部は従業員満足度向上に注力していましたが、HRは従業員の積極的な貢献を引き出すことを目指します。
エンゲージメント向上のための主な施策は、以下のとおりです。
従業員エンゲージメントの現状把握 | 従業員アンケートやインタビュー、離職率などのデータ分析を通じて、従業員のエンゲージメントレベルを把握 仕事への満足度、成長の実感、組織への信頼感などを調査し、課題を特定 |
---|---|
エンゲージメント向上施策の実施 | 課題解決に向けた具体的な施策を企画・実行 目標設定とフィードバック、キャリア開発支援、ワークライフバランス支援、コミュニケーション活性化など従業員のモチベーションを高め、組織への貢献意欲を引き出す施策を実施 |
従業員とのコミュニケーション | 従業員が組織の一員として尊重されていると感じられる環境を提供 |
従業員表彰制度 | 成果を達成した従業員を表彰し、モチベーションを高め、組織全体のパフォーマンス向上を促進 |
HRは、従業員エンゲージメント向上のために以下のポイントを重視します。
- 従業員への理解
- 多様性の尊重
- 公平性と透明性
- 継続的取り組み
HRは、これらのポイントを重視し、従業員エンゲージメント向上を実現します。
HRテックの最新動向
近年、業務効率化や人材管理の高度化を目的とした「HRテック」が注目を集めています。HRテックとは、AIやビッグデータ分析などの技術を活用した人事領域のITツールやサービスの総称です。
HRテック導入の主なメリットには、以下の3点が挙げられます。
業務効率化 | 採用、育成、評価、労務管理などのさまざまな業務を自動化し、負担軽減やより戦略的な業務に集中できる環境を作ります。 |
---|---|
データに基づいた意思決定 | 従業員の属性やスキル、パフォーマンスなどのデータを収集・分析し、客観的なデータに基づいた人材戦略を策定できます。 |
従業員エンゲージメントの向上 | 従業員一人ひとりに合わせたコミュニケーションや育成プログラムを提供し、従業員の満足度や帰属意識を高め、組織全体の活性化に繋げます。 |
メリットがある一方、以下のような課題もあります。
- 導入コスト
- セキュリティ対策
- 従業員のITリテラシー
HRテックは、人事部門の業務効率化やデータに基づいた意思決定など、多くのメリットをもたらします。
一方で課題も存在します。コストやセキュリティ、従業員の抵抗などです。これらの課題を克服するために、企業は導入前にしっかりと検討する必要があります。
HRテックは、人事部門の業務効率化や人材管理の高度化に貢献するだけではなく、企業全体の成長にも繋がる可能性を秘めています。
今後は、より多くの企業がHRテックを活用し、人材戦略の強化に取り組んでいくでしょう。
まとめ
HRとは、「Human Resources」の略称で、日本語では「人的資源」と訳されます。
企業にとって重要な経営資源である人材を戦略的に活用し、組織全体のパフォーマンス向上と企業の成長に貢献するための概念です。
従来の人事部は、採用、育成、評価、労務管理などの事務処理的な業務に重点を置いていました。
一方、HRは人材を企業の競争力を高める「戦略的資産」と捉え、経営戦略に沿った人材戦略の策定・実行に主眼を置いています。
近年は、HRテックと呼ばれるITツールやサービスを活用し、HRの業務効率化や効果的な人材管理を実現する動きが活発化しています。
HRは、企業の成長に不可欠な要素であり、今後ますますその重要性が高まっていくでしょう。