【経営者必見】資金繰りとは?改善方法から成長戦略まで徹底解説

事業を運営している方であれば、資金繰りの重要性は十分認識していらっしゃると思います。一方で自社の資金繰りがうまくいっていない場合、その原因、対策をきっちりと説明できる企業が少ないのも現実です。

過去の倒産企業データを見ると、黒字倒産が約半数を占めています。
そして理由の1つにキャッシュがうまく循環していないことが挙げられます。

当記事ではまず、資金繰りが悪化する要因について分析し、キャッシュを確保するために短期的に取るべき対応について解説します。そして中長期的に取り組んでいくべきことを実例を交えて解説します。

この記事でわかること

  • 資金繰りとキャッシュフローの違い
  • 黒字倒産が発生する理由
  • 資金繰りを改善する方法
目次

資金・キャッシュとは?

そもそも資金とは何でしょうか?

資金繰り、キャッシュフロー、利益といった言葉と比較しながら解説します。

資金繰りとキャッシュフローの違い

資金繰りもキャッシュフローもよく使われる言葉ですが、使う目的が異なります。

資金繰りは将来に支払う必要のある資金を計算し、それに備えるための計画を立てることを目的としています。一方でキャッシュフローは過去の活動から得た資金がどのように増減したのかを見ることを目的としています。目的が異なりますので、当然管理する項目や管理する期間なども異なります。

違いを表したのが下表になります。

・管理する期間

資金繰りは先々の支払い対応のためですので、主に現在~将来を対象としているのに対し、キャッシュフローは過去の実績を対象としています。

・管理するタイミング

資金は日々増減します。資金繰りでは日々管理しますが、キャッシュフローは決算などの一定期間を区切りとして管理します。

・管理する項目

資金繰りは支払手形など、日々の資金の増減に影響する項目を管理します。
キャッシュフローは既に資金を支払ってしまっている減価償却費なども対象としています。

このように一定期間を振り返る経営状況の分析等にはキャッシュフローが使われますが、実際の資金の動きを考える際には資金繰り表の方が適していると言えます。 

資金とキャッシュフロー、利益の違い

資金、キャッシュフロー、利益もよく使われますが、それぞれ異なった意味を持ちます。

利益とは、一定期間の売上からその期間に対応する費用を引いたものになります。

利益では現金の動きは考慮されておらず、売上の中には売掛金など現金化されていないものもありますし、逆に買掛金など現金を支出していない費用も含まれます。

利益から現金の動きを伴わない項目を増減し、本業(営業活動)、投資活動、財務活動(資金調達等)の3つの視点から現金の動きを表したものをキャッシュフローと言います。キャッシュと資金とはほぼ同じ意味で、現金を表しています。資金繰り、キャッシュフローで見たように、資金は業務を運営していくための現金であり、日々増減するものですが、キャッシュフローはある一定期間の資金の動きの結果を表しているものになります。

出資と融資の違い

出資と融資の違いは、簡単に言ってしまえば、出資は外部からその企業の資金として支払われるものであり、融資は外部等から借りる(返済義務がある)資金である点が大きく異なります。

当然融資には返済する際に金利も発生しますし、定期的な返済が必要になります。一方で出資は返済義務がなく、金利も発生しませんが、出資した人が求める企業成長を実現していく必要があります。

黒字倒産の現状

黒字倒産とは?

黒字倒産とは、利益は出ているのに会社が倒産してしまう状態を言います。

後継者がいないため倒産するケースもありますが、キャッシュ不足も黒字倒産の大きな理由となっています。利益がプラスだったとしてもキャッシュフローや資金という視点で見ると、マイナスになっているケースがあります。黒字だけに気が付いていないケースも多く、企業運営において注意が必要です。

倒産件数の約半数が黒字倒産

東京商工リサーチの2020年の「倒産企業の財務データ分析」によると、
倒産企業のうち、黒字企業であった比率は46.8%となっております。

実に半分近くが黒字倒産に陥っていることがわかります。後継者不足と資金不足が2大理由ですが、売上もきっちりと上がっていることから、資金不足は回避することができた可能性が高いと言えます。

なぜ資金繰り悪化に陥るのか?

なぜ資金繰りが悪化するのでしょうか?東京商工リサーチの結果では約半数が利益は出ている状態でした。

資金繰りの悪化は、利益ではなく、入金と出金のバランスが取れていない場合に発生します。企業の利益と資金の動きを簡単な例で確認したいと思います。

以下の条件で事業を運営している小売業を想定します。

・売上、費用、利益は100、80、20で一定となっている
・売上は当期に全額掛で計上され、翌期に半分回収、翌々期に半分回収する
・仕入は当期に80のうち30だけ支払いを行い、残りの50を翌期に支払う 

  

 

利益を見ていただきますと、3期とも20の黒字となっています。

一方で現金(期末)の動きをみると、2期目から▲30と資金がショートしています。もし、2期目の資金のショートを埋めることができない場合、人件費を支払うことができない、仕入を行うことができないという状況に陥って、倒産してしまうことになります。

以上のように、損益計算書上利益が出ているからと言って資金繰りにも余裕があるわけではありません。
資金は別のものとして管理していく必要があります。  

資金繰りが悪化したときに生じるデメリット

資金繰りが悪化すると、一番最悪な場合、事業運営を続けていくことができなくなります。最悪なケースに陥らなくても、以下のようなデメリットが生じる可能性があります。

・信頼の低下

従業員への給与支払いや取引先への支払い遅延が生じ、企業の信頼性が低下する。

・借入金の増加

資金ショートを穴埋めするために借入金で調達した場合、
金利負担額の増加や財務の安定性の低下につながる。

・ビジネスチャンスを逃す

新規投資の機会や販売拡大の機会が来ても、資金不足でチャンスを掴むことができない。

資金繰り悪化に陥る原因を4つを紹介

資金繰りが悪化すると、倒産に至らない場合でも様々なデメリットが生じることを見てきました。

他方で資金繰り悪化は原因によっては防ぐことが可能です。そのためには原因を明確にしていく必要があります。代表的な原因について紹介します。

①売上の急激な増加・低下

売上が低下した場合はもちろん、急激に増加した場合も注意が必要です。売上が増加すると、小売業の場合は先に商品を仕入れる必要があります。売上ですぐに現金化できればいいですが、売掛金などで現金の回収が遅れると資金ショートにつながります。

当然売上が低下した場合、現金の入金が減ることになりますので、その他の現金支出が必要な項目の合計を上回る売上の減少があれば、資金がショートすることになります。

②売掛金回収遅延・貸し倒れの発生

何らかの原因で得意先への売掛金が回収できない場合に、資金繰りが悪化します。販売先の倒産等による貸し倒れの発生も当然のことながら、入金が滞りますので、資金がショートする原因の1つになります。

③在庫の増加

在庫は、まず支出を行い、商品を仕入れる必要があります。通常であれば販売が行われ、仕入の際に支払った現金を販売することで手に入る現金で回収していくことになりますが、在庫が増えると仕入による支出ばかりが先行し、資金を減らすことにつながります。

④支払いー入金サイクルの設定ミス

ある月に商品を仕入れて、その月に販売する事業であったとしても、掛取引(※商品の受け渡し後に代金を支払う取引)が多くなると現金化のタイミングがずれてきます。仕入は当月末払い、売上は翌月受け取りとなると、仕入の資金支出が先行してしまい、資金ショートにつながる可能性が出てきます。

仮に事業が好調であったとしても資金の入出金をきっちりと管理しておかないと、ショートする可能性があります。

資金繰りが悪化した際に行うこと

資金繰りが悪化した場合、何をすればいいのでしょうか?

現金の流れを把握し、キャッシュフローを予測する

まずは資金繰りの現状を把握することが重要です。資金繰りの把握は日常から行うことで、資金の動きを予期することもできます。

まずは資金繰り表を作成し、過去の現金の動きを確認してください。12か月分を抑えることで必要な資金がお判りいただけます。月によって大きな動きがある場合は、日々の動きについても確認してください。

次に過去の資金繰り表を参考に、今後12か月分程度の予測資金繰り表を作成し、資金が厳しい時期や必要額を抑えます。税金の支出や社会保険料の支出などにも気を付けましょう。必要に応じて専門家のチェックを受けることも重要です。

キャッシュを確保する(短期編)

必要な資金が概ね見えてくれば、次に資金をどのようにして調達するかを考えます。

売掛金の早期回収

まずは売掛金を早期に回収することです。

部分的にでも回収期間が早まれば、資金のサイクルに余裕を持たすことができます。ある程度、販売先への交渉が可能であれば、例えば企業の会計ポリシーの変更で部分的に先に入金いただく必要ができたなどの理由で、まずは調整してみることをおすすめします。キャッシュに余裕のある大企業等であれば、比較的応じていただくことができます。

在庫の削減

次に在庫の削減によるキャッシュの確保です。在庫は仕入で支出したキャッシュの塊と考えることができます。必要以上に在庫を保有している場合、効果的な資金捻出法になります。

例えば、仕入をせずに在庫にある分を現金売上で80販売すると、キャッシュが80増えることになります。仕入の現金はすでに支出していますのでキャッシュが純粋に増加します。このようにして適性在庫を維持することで、在庫削減分の資金を生み出すことができます。

ただし無理やり在庫を減らすと、販売好調な商品の仕入を抑制して、販売機会を失うことの方がデメリットが大きいため注意が必要です。

支払いサイクル、売上入金サイクルの見直し(取引先との条件交渉)

仕入費用を支払う期間と売上の入金サイクルを見直し、資金を生み出す方法です。

仮に以下の取引を想定します。

仕入:80   当月〆、翌月払い
売上:100 当月〆、翌月払い

上記の場合、翌月には、100ー80=20の資金を手元に調達することができます。

もし、仕入先と交渉し、仕入条件を以下のように変更したとします。

仕入:80   当月〆、翌々月払い
売上:100 当月〆、翌月払い

この場合、変更した翌月は、仕入の支払いが発生しませんので、売上の100の資金をそのまま調達することができます。翌々月には、100‐80=20のキャッシュとなりますが、その後も20のままで変更がありませんので、条件変更後に手に入れた100の資金は金利0で調達することができた資金と同じと考えられます。

また、月の末日に仕入れていた場合は、1日遅らせて翌月1日に変更すると、支払いをさらに翌々月に伸ばすこともできます。

つまり、支払いはできるだけ遅く、入金はできるだけ早くすることで、資金繰りを改善することができます。

短期的資金調達の実施

資金繰りを改善するために、外部を利用するのも有効な手段です。

・ファクタリング

ファクタリング業者に自社が持っている売掛金を買い取ってもらい、現金化する手法です。

売掛金の回収リスクもなくなりますが、一定の手数料を支払う必要があります。しかし、早ければ数日で現金化することができます。

・ビジネスクレジットカードの活用

クレジットカードの法人用になります。法人用であるため、限度額が数百万円~1千万円と大きいことが特徴です。事業運営には様々な費用が掛かりますが、これらを現金ではなく、ビジネスクレジットカードを使い、支払いを遅らせることで一時的にキャッシュを作ることができます。年会費等が必要ですのでご留意ください。

・短期継続融資(短コロ)

通常長期の資金貸し付けを受けると、毎月返済をしていく必要があります。一方で短期の貸付は一定期間を設定し、期日が来ると返済するというものです。短期継続融資は期日が来た時に新たに同様の融資を受け、金利のみ支払うというものです。結果、金利のみで長期的に資金を融通することができます。また、月々の返済がないため、キャッシュが出ていくこともありません。ただ、短期継続融資は経営が安定している企業が受けることができることには留意が必要です。

金融機関等への返済スケジュールの変更(リスケジュール)

取引のある金融機関等へ返済スケジュールの変更など、借入条件の変更を申し出て、資金を確保する方法です。当然金融機関側も倒産されると元も子もありませんので、しかるべき理由があれば、相談に乗ってくれます。

短期的に確保したキャッシュを活用する(中長期編)

これまで短期的な資金調達について見てきました。短期的な取り組みで資金繰りが改善するケースもありますが、原因を見つけ出し、根本的な対応するにはそれなりの期間が必要です。あくまで短期資金調達は一定期間の猶予を得たと考えるべきです。ここでは資金繰りを改善する中長期的な方法について説明します。

固定費の削減

固定費の削減は財務体質を強化する重要な方法です。固定的にかかる費用が多ければ多いほど、利益を出すためには多くの売上が必要となります。景気悪化で売上が減少した場合などに、一気に資金繰りが悪化することになります。特に固定費を見直すポイントは以下の項目です。

・地代家賃
・人件費、役員給与
・3K費(旅費交通費・車両費、交際費、広告宣伝費)
・ITのインフラを保有しているような場合の保守運用費 など

固定費はまず削減を検討してください。できない場合は変動費化できないかの検討を行います。

不要遊休資産・不採算事業の売却

利用されていないのに保有している資産や不採算の事業も資金繰りを悪化させる大きな要因となります。遊休資産は使わずとも固定資産税などがかかってきます。また、不採算事業は資金を垂れ流しているだけの可能性もありますので、撤退の検討を行う必要があります。

ただし、事業が見かけ上、不採算になっているケースやいきなり撤退してしまうとお客様に迷惑をかけたり、費用回収が困難になるケースもありますので、十分な検討が必要です。

売上向上策の実施・事業再構築

これが一番根本的な治療になります。短期的な資金の調達に成功すれば、長期的に自社はどの方向に進んでいくのか、そのためにはどういった事業が必要なのか、中長期的な計画を踏まえて事業を考えていきましょう。必要に応じて、事業再構築補助金など、公的な補助金を用いて抜本的な改善を進めることができるケースもあります。

事業ライフサイクルとキャッシュ

事業を再構築する場合、事業のライフサイクルとキャッシュの関係に留意する必要があります。

新規事業のライフサイクルとキャッシュフロー

一般的に新規事業のライフサイクルとキャッシュフローは以下のような関係になります。

 

創業期はまだ市場が大きくありませんので営業キャッシュフローはマイナスになります。事業継続のために設備の増強が必要となりますので、投資活動もキャッシュがマイナスになります。その分資金を調達する必要がありますので投資活動はプラスになります。

成長期になると市場の拡大とともに営業キャッシュフローが増加してきます。全体のキャッシュフローもマイナスからプラスに変化していきます。

成熟期になると、営業キャッシュフローはプラスで、設備投資は継続的に投資しますのでマイナスになります。財務活動も借入金等の返済によりマイナスとなりますが、営業キャッシュフローのプラスが大きく、全体のキャッシュフローはプラスになります。

衰退期に入ると市場の縮小と合わせてキャッシュフローもマイナスへと変化します。

このように、新規事業を起こしてもすぐにはキャッシュフローの改善につながりません。よって資金繰りが厳しいからと言って新規事業を起こすというのは正しい選択でないことがわかります。

既存事業のシナジーを活用した新規事業への展開

資金安定化のために、事業の再構築が必要な場合などは新たな事業を立ち上げるのではなく、できるだけ既存の経営資源等を活用できる範囲で事業を再構築していく必要があります。そうすることでキャッシュを抑えながら事業を再構築していくことができます。

この時、成長戦略で参考になるのがアンゾフの成長マトリクスです。

出所 https://mirasapo-plus.go.jp/hint/15043/

市場を縦軸に取り、既存、新規に分け、横軸に製品を既存、新規に分け、合計四象限で成長戦略を考える方法です。既存市場‐既存製品から新規市場‐新規製品の多角化戦略を一気に目指す場合、新事業の立ち上げとなり、前段で見たようにすぐにはキャッシュを生み出すことができません。

既存の製品を新たな市場へ提供したり、既存の市場へのアクセス(流通チャネルなど)を用いて新商品を提供したりと少し軸をずらすことで次の成長を実現する方法になります。この場合にはキャッシュの出を抑えながら、新たなキャッシュ獲得の道を開くことができます。

成長戦略の成功事例

ある板金事業者は、一定のお客様の板金加工を行っていましたが、受注減に伴い、インターネットで新たな顧客に対してセミオーダーメイドの板金加工の販売を行いました。既存商品を新規顧客に販売する新市場開拓戦略になります。これが奏功し、新たな受注を生み出しました。

新製品開発戦略では、例えばApple社があります。Appleファンに対して、MacbookやiPhone、AirPodsなどを投入して成功を手に入れています。

ただ、新製品開発には一定のコストや時間がかかることを考えると、当記事のテーマの資金繰りという観点では難しい部分があるかもしれません。

まとめ

これまで見てきたように、事業が健全で資金繰りが悪化している場合は、経営のハンドリングミスの可能性があり、挽回が可能です。

資金繰りの悪化に対しては、まず①悪化原因・資金の今後の動きを確認し、②短期的な止血策(資金調達、スリム化等)を行う必要があります。止血ができ、一定のキャッシュを作ることができれば、次は中長期的な視点でキャッシュ創出の仕組みづくりを行っていくことが必要です。

その際に事業を再構築する場合は、完全に新規事業へ参入するのではなく、既存事業とのシナジーを活用して、新たな成長ステージの探求を行う必要があります。

資金繰り対策は多くの企業が悩んだテーマであるため、その分解決策も色々あります。当記事が状況に応じた資金対策をお選びいただく際の一助になればと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士・2級ファイナンシャルプランニング技能士。
平日昼間は民間企業に勤務。平日夜間、休日に中小企業診断士としてコンサルティング、執筆活動を行っている。

目次