市場規模の算出に頭を悩ませていませんか?
特にニッチな業界では、正確なデータの入手が困難で、市場の全体像を把握するのが一苦労です。
本記事では、市場規模の概要や調査方法、データが乏しい状況でも活用できるフェルミ推定の手法を詳しく解説していきます。市場規模を把握できれば、的確な事業投資や効果的な商品開発に役立てられます。
本記事で紹介する手法を活用すれば、データが少ないニッチ市場でも市場規模の推定ができるようになるでしょう。
市場規模の概要
市場規模の概要を理解するためには、定義や指標などを把握しておく必要があります。
ここでは、市場規模の定義と役立つ3つの指標、市場規模と売上の違いを見ていきましょう。
市場規模の定義
市場規模とは、特定の業界での年間売上高または販売数量を指します。
簡単に言えば、その市場がどれくらいのお金を生み出しているか、あるいはどれくらいの商品が売買されているのかを表す指標です。
例えば、「日本のスマートフォン市場規模は2兆円」といえば、日本のスマートフォン市場全体で年間2兆円の売り上げがあるという意味になります。
市場規模は、新規事業の立ち上げや新製品の開発など、さまざまな場面で活用されます。なぜなら、市場規模を知ることで、その市場に参入する価値があるかどうかを判断できるからです。
市場規模が把握できれば、以下のようなことがわかります。
市場の大きさ | 市場規模が大きければ大きいほど、参入する価値が高くなる |
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競争状況 | 市場規模が大きいほど、競合企業も多く存在する可能性が高くなる |
成長性 | 市場規模が成長している市場であれば、参入すればで大きな利益を得られる可能性が高くなる |
市場規模は、売上高と販売数量のどちらで表しても構いませんが、一般的には売上高で表されることが多いです。
また、市場規模は年間で表されることが多いですが、月間や四半期など、任意の期間で表すことも可能です。
市場規模を調べるのに役立つ3つの指標
市場規模の把握は、さまざまな場面で活用できます。しかし、市場規模を正確に把握するのは容易ではありません。
ここでは、市場規模を調べるのに役立つ3つの指標を紹介します。
市場売上高
市場売上高とは、特定の事業での市場全体の売上高を指します。
これは、市場規模を把握する最も基本的な指標であり、さまざまな調査機関や企業によって公表されています。市場売上高は、自社の製品・サービスがターゲットとしている市場の全体像を把握するのに役立ちます。
また、競合他社の売上高と比較すれば、自社の市場シェアを推測するのにも役立つでしょう。
市場シェア
市場シェアとは、特定の市場での自社の製品・サービスの売上高が、市場売上高全体に占める割合のことを指します。
市場シェアは、自社の競争力や市場での立ち位置を把握する上で役立ちます。市場シェアを計算するには、以下の式を使用します。
市場シェア=(自社の売上高/市場売上高)×100
市場シェアは、自社の強みや弱みを分析し、今後の戦略を立案するのに役立ちます。
また、投資家や融資機関に対して、自社の事業の魅力をアピールするのにも有効です。
成長率
成長率とは、市場規模が過去どのくらいの速度で成長してきたのか、または将来どのくらいの速度で成長していくと予想されるのかを表す指標です。
成長率は、市場の将来性を評価する指標として用いられます。
成長率が高い市場は、新規参入者にとって魅力的な市場と判断できます。しかし、競争が激化し、利益を上げることが難しい市場でもあることに注意が必要です。
市場規模と売上の違い
市場規模と売上は、ビジネスではどちらも重要な指標ですが、意味が違います。市場規模は、特定の市場や業界全体の潜在的な価値を示す指標です。
これには、その市場に参入しているすべての企業の売上合計が含まれます。
一方、売上は個々の企業が実際に得た収入を指します。
例えば、日本のスマートフォン市場規模が1兆円だとすると、これは全メーカーの売上合計を意味します。
しかし、Apple社の日本での売上が2000億円だった場合、これはApple社一社の実績であり、市場規模とは違う意味です。
市場規模は将来の成長可能性や参入機会を評価する際に役立ちますが、売上は個別企業の現在の業績を示す数値です。どちらか一方だけではなく両者を比較すれば、自社の市場シェアや成長の余地を把握できるでしょう。
市場規模の調査方法
市場規模を調査するためには、以下の3つの方法が有効です。
- 官公庁や調査会社の統計データを利用する
- 企業の決算報告書やIR資料を参照する
- 専門家へのインタビューで市場規模を探る
調べられるサイトも紹介しているので、参考にしてください。
官公庁や調査会社の統計データを利用する
官公庁や調査会社が公表する統計データは、市場規模を調べる際に役立つ貴重な情報源です。
特に、体系的な調査を進めたい場合や、複数の指標を用いて比較分析したい場合に有効です。
ここでは、代表的な方法をいくつか紹介します。
官公庁の統計データ
経済産業省や財務省などの官公庁は、さまざまな産業に関する統計データを定期的に公表しています。
代表的なものとしては、以下の調査があります。
経済産業省「工業統計調査」 | 鉱工業、化学工業、繊維工業など、幅広い産業の生産量、出荷量、売上高などを調査したものです。地域別の調査結果も公表されており、詳細な分析が可能です。 |
財務省「法人企業統計調査」 | 法人企業の決算に基づいて、売上高、利益、従業員数などを調査したものです。産業別の調査結果に加え、都道府県別のデータも提供されています。 |
これらの調査は、無料で利用できるものが多く、政府統計のポータルサイト「e-Stat」で簡単に検索できます。
企業の決算報告書やIR資料を参照する
企業の決算報告書やIR資料は、市場規模を調査する上で貴重な情報源です。上場企業は四半期ごとに決算報告を行い、売上高や利益などの財務情報を公開しています。
これらの資料を分析すれば、特定の業界や製品カテゴリーの市場規模を推定できます。
例えば、ある業界の主要企業の売上高を合計すれば、おおよその市場規模の推測が可能です。
また、IR資料には市場シェアや成長率などの情報も含まれていることがあり、より詳細な分析が可能になります。
ただし、非上場企業の情報は入手しにくいため、完全な市場規模を把握するのは難しい場合もあります。
専門家へのインタビューで市場規模を探る
官公庁や調査会社の統計データに加え、専門家へのインタビューも市場規模を調べる有効な手段の一つです。
特に、ニッチな市場や調査データが少ない市場では、専門家の知見を活用すれば、より精度の高い市場規模の算出が可能です。
専門家へのインタビューで市場規模を調べるメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- 一次情報に基づいた調査が可能
- ニッチな市場にも対応
- 定性的な情報も収集可能リスト
専門家へのインタビューで市場規模を調べる方法は、以下のような方法があります。
- 業界団体や調査会社に紹介を依頼
- インターネットで検索
- 講演会やセミナーに参加する
専門家インタビューは、市場規模を調べる際に有効な手段の一つですが、あくまで参考情報として捉えることが重要です。
インタビューで得た情報は、他の情報源と照らし合わせながら、総合的に判断するようにしましょう。
市場規模の算出方法
市場規模の算出方法には、大きくわけて2つの方法があります。
売上高とシェアから算出
知りたい業界のシェア構成が分かっている場合、企業の売上高とシェアから市場規模を推測できます。
これは、比較的簡易的な方法であり、公開情報のみで算出できるため、市場調査の初期段階や、限られた情報しか入手できない場合に有効です。
具体的な計算式は以下の通りです。
市場規模=企業の売上高÷企業のシェア
(例)A社のシェアが30%、A社のその分野の売上高が120億円の場合、市場規模は以下のとおり算出できます。 市場規模=120億円÷0.3=400億円 |
この方法で市場規模を算出する際以下の点に注意する必要があります。
企業の売上高の範囲
企業が公表している売上高が、どの事業分野・地域・期間のものなのかを把握する必要があります。分析対象とする市場規模と整合する範囲の売上高のみを使用しなければいけません。
例えば、海外売上を含まない国内市場規模を算出したい場合は、海外売上を除いた売上高を用いる必要があります。
複数企業のシェア情報
複数の企業のシェア情報が利用できる場合は、より精度の高い市場規模推定が可能です。
その際、各企業のシェア情報の信頼性や整合性を確認する必要があります。例えば、調査会社によって異なるシェア情報が発表されている場合は、それぞれの調査方法や調査対象期間などを比較検討する必要があります。
市場規模の算出は、必ずしも完璧な値を得られるわけではありません。しかし、上記のような方法を組み合わせることで、市場規模の推定値を導き出せます。
フェルミ推定を用いて算出
企業側や消費者側の情報から市場規模を直接的な算出が困難な場合、フェルミ推定と呼ばれる手法を用いて、市場規模を推測できます。
フェルミ推定とは、物理学者エンリコ・フェルミが考案した手法で、限られた情報をもとに論理的に推論する手法です。
市場規模算出では、ターゲットとなる人口や世帯数、利用頻度、利用額、1回あたりの消費金額、販売店舗数、平均売上高などの情報を手がかりとして用います。
具体的な推定方法は、以下の3つのステップに分けられます。
①関連情報を収集・整理 | 推定したい市場規模に関連する情報をできる限り集めます。統計データや業界レポート、企業公表情報、ニュース記事など、さまざまな情報源を活用しましょう。 |
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②仮説の設定 | 集めた情報に基づいて、市場規模を構成する要素と、それぞれの要素に関する仮説を立てます。例えば、「ターゲットとなる人口は〇〇人」「利用頻度は月に〇回」「1回あたりの消費金額は〇〇円」といった仮説を設定します。 |
③計算・分析 | 設定した仮説に基づいて、市場規模を計算します。例えば、「ターゲット人口×利用頻度×1回あたりの消費金額」といった計算式を用いて、市場規模を推定します。 |
市場規模を推定する場合、以下のような情報を手がかりとしていくと良いでしょう。
- ターゲットとなる人口や世帯数
- 利用頻度
- 利用額
- 1回あたりの消費金額
- 販売店舗数
- 平均売上高
上記のような情報を組み合わせ、仮説を立てながら論理的に計算を進めていくことで、市場規模の推定値を導き出すことが可能です。
フェルミ推定の計算例
フェルミ推定は、限られた情報からでも論理的に推論し、市場規模を概算する方法です。
ここでは、東京都のラーメン屋さんの市場規模を推定してみましょう。
まず、推定に必要な情報を整理します。
- 東京都の人口:約1,400万人(2024年1月時点)
- ラーメン1杯の平均単価:約1,000円
次に、推定を導き出すための仮説を立てます。
- 東京都民は、月に1杯ラーメンを食べる
仮説に基づいて、東京都のラーメン屋さんの市場規模を計算してみましょう。
- 東京都の月間ラーメン消費量=東京都の人口(1,400万人)×1杯=1,400万杯
- 東京都の年間ラーメン消費量=1,400万杯×12ヶ月=1億6,800万杯
- 市場規模=1億6,800万杯×1,000円(ラーメンの平均単価)=1兆6,800億円
上記の計算から、東京都のラーメン屋さんの市場規模は約1兆6,800億円と推定されました。
これは、あくまでも仮説に基づいた推定値であり、実際の市場規模とは異なる可能性があります。しかし、フェルミ推定は、限られた情報からでも市場規模を概算する方法として有効です。
ビジネスシーンでのフェルミ推定の応用例
フェルミ推定は、市場規模の算出以外にも、ビジネスシーンでさまざまな場面で応用できます。ここでは、代表的な2つの応用例を紹介します。
新規事業の立ち上げ
新規事業を立ち上げる際には、市場規模の把握が重要です。しかし、新しい市場の場合、データが不足していることも珍しくありません。
そのような場合でも、フェルミ推定を用いることで、市場規模をある程度推定できます。
例えば、ペットフードの新規事業を立ち上げる場合、まず日本でのペットの飼育数を推定する必要があります。
次に、ペット1匹あたりの年間ペットフード購入額を推定すれば、市場規模を算出できます。
既存事業の分析
既存事業の分析でも、フェルミ推定は役立ちます。
例えば、自社の製品・サービスのシェアを推定したり、競合他社の売上を推定したりすれば、自社の立ち位置を把握できます。
また、市場規模の成長率を推定し、今後の事業戦略を立てることも可能です。
まとめ
市場規模の調査と算出は、ビジネス戦略の重要な基盤となります。
本記事では、政府統計や企業の決算報告書、専門家インタビューなど、多角的なアプローチを紹介しました。
特に、ニッチな業界でも活用できるフェルミ推定法は、正確なデータが少ない状況でも市場規模を推定できる実用的な手法です。
これらの方法を組み合わせることで、より精度の高い市場規模の把握が可能です。
新規事業の立ち上げや既存事業の分析に、ぜひこれらの手法を活用してみてください。