雇用調整助成金。聞いたことはあるけれど活用したことがない事業主の方も多いのではないでしょうか?
特にコロナ禍で話題となり、新型コロナウイルスが5類になった昨今では不正受給で逮捕者が出た報道なども耳にするようになり、よい印象がない事業者様も多いかもしれません。
私は中小企業診断士として活動しており、様々な企業の方の相談に対応する中でこのような声も多く聞いてきました。
雇用調整助成金は、助成内容が変わるなど難しい部分もありますが、適切に活用すれば事業の存続や持続的な成長に有効なツールとなります。
この記事では、雇用調整助成金の概要やよくある誤解、不正受給にならないためのポイントに加えて、最新(令和6年4月現在)の雇用調整助成金の情報を解説します。
雇用調整助成金の概要
雇用調整助成金は、経済的な困難に直面した事業主が、従業員を解雇せずに雇用を維持するための支援を提供する制度です。この助成金は、休業や教育訓練の実施に伴う費用の一部を国が補助することで、事業主の負担を軽減し、従業員の生活安定を図ることを目的としています。
雇用調整助成金の目的
雇用調整助成金の最大の目的は、経済的な変動や産業の構造変化によって事業が一時的に縮小した場合でも、従業員を解雇することなく雇用を維持することです。
これにより、従業員は安定した生活を続けることができ、事業主は経済状況が改善した際に迅速に事業活動を再開することが可能となります。
雇用調整助成金の支給要件
雇用調整助成金を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。主な支給要件は以下の通りです。
- 雇用保険の適用事業主であること。
- 雇用保険の適用事業主であること。
- 最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
- 雇用量を示す指標について、最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと。
- 実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
- 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。
雇用調整助成金の助成額
助成額は、休業手当の支払い額や教育訓練にかかる費用に基づいて計算されます。具体的には、休業手当の1/2から2/3が助成されます。教育訓練の費用についても一定の割合が補助されます。助成額の計算方法や支給条件は複雑であり、事前に専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
申請手続き
雇用調整助成金を受けるためには、適切な申請手続きを行う必要があります。このプロセスは複数のステップに分かれており、事前の準備が重要となります。
申請の流れ
申請の流れは、まず休業や教育訓練の計画を立てることから始まります。その後、必要書類を準備し、労働局に申請を行います。申請が受理されると、助成金の支給が開始されますが、この過程での正確な情報提供と書類の正確な記入が不正受給を避けるためには不可欠です。申請の流れは以下の通りです。
- 雇用調整(休業・教育訓練・出向)の具体的な計画を立てる
- 雇用調整の計画内容について計画届を提出する
- 計画届に基づいて雇用調整を実施する
- 雇用調整の実績に基づいて支給申請をする
- 支給申請の内容について審査と支給決定が行われる
必要書類
申請に必要な書類には、計画届に加え、休業協定書、休業計画書、給与台帳などの確認書類が含まれます。これらの書類は、休業や教育訓練の実施計画を明確にし、助成金の支給要件を満たしていることを証明するために重要です。書類の不備があると申請が遅れる原因となるため、慎重な準備が求められます。
雇用調整助成金の不正のリスクと対策
不正受給は、法的な罰則を伴う重大な違反行為です。正しい理解と適切な申請手続きによって、このリスクを回避することが可能です。
不正受給とは
不正受給とは、虚偽の情報を提供したり、不正な手段で助成金を受け取ったりする行為を指します。これには、実際には休業していないにも関わらず休業したと申告するケースや、教育訓練を実施していないにも関わらず実施したと申告するケースなどが含まれます。
不正受給が発覚した場合、事業主は受給した助成金の返還を求められるだけでなく、違約金や延滞金の支払いを命じられることがあります。また、不正受給日から5年間は雇用関係助成金を受給できなくなるという不支給措置が取られることもあります。
不正受給の具体例
不正受給の具体例には、休業手当の過大請求や、存在しない従業員に対する助成金の申請などがあります。これらの行為は、厳しい法的制裁を受ける可能性があり、事業の信頼性を損なう原因となります。
不正受給にならないために
不正受給を避けるためには、申請書類の正確な記入と、必要書類の適切な保管が必要です。また、申請手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することが推奨されます。
雇用調整助成金のよくある誤解と勘違い
雇用調整助成金に関する誤解や勘違いは多く、正しい情報の普及が求められています。
誤解1 中小企業しか利用できない
多くの人々が、雇用調整助成金は中小企業のみが利用できると誤解していますが、実際には大企業も含めたすべての事業主が利用可能です。この誤解は、助成金の適用範囲を狭め、利用機会を逃す原因となります。
誤解2 休業以外に利用できない
別の一般的な誤解は、雇用調整助成金が休業時のみに利用できるというものです。しかし、実際には教育訓練や出向など、休業以外の雇用調整にも利用することができます。この誤解を解消することで、事業主はより多様な状況で助成金を活用することが可能となります。
誤解3 申請が複雑で難しい
雇用調整助成金の申請プロセスは、適切な情報と準備があれば比較的容易です。申請書類の準備や手続きの流れについては、労働局のウェブサイトや専門家からのアドバイスを通じて、正確な情報を得ることができます。
新型コロナウイルス感染症関連の特例措置
令和2年4月1日から令和5年3月31日まで新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主に対しては、特例措置が設けられてきました。雇用調整助成金の支給要件等は、定期的に見直され要件等が変更される場合があるため、注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症関連の特例措置概要
コロナ禍では、雇用調整助成金の特例措置として、支給条件の緩和や申請手続きの簡素化が行われました。
助成額の変更や日数の変更など、コロナ禍では、頻繁にメディアでも取り上げられていたため、雇用調整助成金と聞くとこちらを思い浮かべる方も多いかもしれません。コロナ禍で実施されていた特例措置には以下のようなものがあります。
- 支給対象の拡大
- 助成率の上昇
- 支給限度日数の拡大
- 申請手続きの簡略化
支給対象の拡大
全ての業種の事業主が対象となり、売上高や生産量が前年同月比で10%以上減少した事業主が助成を受けられた。
助成率の上昇
中小企業では休業手当の70%から100%が助成され、大企業でも助成率が上がった。
支給限度日数の拡大
休業や教育訓練の実施日数に応じて、助成金の支給日数が拡大されていた。
申請手続きの簡略化
必要書類の簡略化やオンラインでの申請受付が可能になり、事業主が迅速に助成金を受け取れるようになっていた。
先にも触れたようにこれらは、新型コロナウイルス感染症関連の特例措置として実施されたものであり、雇用調整助成金の内容は定期的に見直されているため、申請する際には厚生労働省のページより最新の情報を確認することが重要です。
新型コロナウイルス感染症関連の特例措置で発生した不正
雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症関連の特例措置により申請が簡便になったことで、様々な不正が発生し、昨今、明るみに出ています。雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症の特例措置を悪用した不正受給には、実際には休業していないにも関わらず、休業したと虚偽の報告を行い、助成金を不正に受給する「虚偽の休業報告」や、実際の休業手当よりも多くの金額を請求し、不正に助成金を受け取る「過大請求」などがあり問題となっています。
令和6年4月からの制度の見直し
令和6年4月から、雇用調整助成金の制度が見直されました。これにより、より効果的な雇用維持支援が行われることが期待されます。
助成率と教育訓練加算の見直し
助成率の変更や教育訓練加算の見直しでは、事業主がより柔軟に助成金を活用できるようになりました。これにより、従業員のスキルアップやキャリア形成を支援することができます。見直し前と見直し後では以下のような違いが見られます。
企業規模 | 助成率 | 教育訓練加算 |
---|---|---|
中小企業 | 2/3 | 1,200円 |
大企業 | 1/2 |
教育訓練実施率 | 企業規模 | 助成率 | 教育訓練加算 |
---|---|---|---|
1/10未満 | 中小企業 | 1/2 | 1200円 |
大企業 | 1/4 | ||
1/10以上1/5未満 | 中小企業 | 2/3 | |
大企業 | 1/2 | ||
1/5以上 | 中小企業 | 2/3 | 1,800円 |
大企業 | 1/2 |
支給対象となる教育訓練の見直し
支給対象となる教育訓練の内容が見直され、より実践的で現代的なニーズに合わせた教育が支援されるようになります。これにより、事業主と従業員双方が、変化する労働市場に適応するための支援を受けることができます。
専門家のアドバイスが有効
雇用調整助成金の申請と活用には、専門家のアドバイスが非常に有効です。正確な情報と適切な手続きによって、助成金を最大限に活用することができます。
申請前に必ず事前確認申請を行う
申請前には、計画の事前確認を行うことが推奨されます。これにより、申請書類に不備がないか、支給要件を満たしているかなどを確認することができます。
専門家に相談する
不明点がある場合や、申請手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することが重要です。専門家は、最新の情報と正確な手続きを提供することができます。
まとめ
労働者の獲得が困難になっている昨今では、既存の労働者を維持することも非常に重要になっています。
雇用調整助成金は、事業主と従業員双方にとって重要な支援制度です。正しい理解と適切な申請によって、雇用を維持し、事業の持続可能性を高めることができます。雇用の維持が困難な際には、リストラ等の人員整理ではなく、雇用調整助成金の活用も検討されてみてはいかがでしょうか。